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グループホーム火災、続く悲劇の背景
● スプリンクラーがあれば被害を軽減できるが…
  2月8日夜、長崎市内にある認知症高齢者グループホームで火災が発生し、入居者4名が亡くなった。長崎県では、平成18年1月にも大村市の認知症高齢者グループホームで大規模な火災があり、入居者7名が亡くなる惨事が起こっている。当時、この事件をきっかけとして消防法施行令等が改正され、消火器や自動火災報知設備などの設置義務が、すべてのグループホームにも適用された。
  だが、この施行令の直後にも、平成22年3月に札幌市の認知症高齢者グループホームで火災による7名の死者が出た。今回の長崎市の火災の2日後には、新潟市の障害者グループホームでも火災があり、60代の男性入居者が亡くなっている。なぜ、「グループホーム」に、こうも火災が集中するのか。構造的な問題があるのでは、と考える方が自然だろう。
  長崎市のグループホーム火災で指摘されているのが、スプリンクラーの設置がなされていなかったという点だ。スプリンクラーには、初期消火や延焼防止などの効果が期待されるが、もう一つ重要なのは、特に夜間に配置が薄くなる職員が、「入居者の避難誘導に集中できる」という利点があげられる。
  認知症高齢者グループホームの人員基準では、1ユニット(定員9名)あたりの夜勤職員配置は1名となっている。仮に火災が発生した場合、その1人が冷静な判断能力を失えば、消火器による初期消火と入居者の避難誘導が中途半端になり、重大な結果を及ぼしかねない。その意味で、スプリンクラーの設置は、適切な初期行動につながるわけだ。
● 設置のための補助があっても、零細事業者にはかなりの負担
  ところが、このスプリンクラーの設置は、すべてのグループホームで義務づけられているわけではない。先の改正消防法施行令で、スプリンクラーの設置義務の範囲は広がったものの、「275u未満の施設等」については義務化が適用されない。実際、今回の長崎市のグループホームは対象外となっていた。
  その背景として、認知症高齢者グループホームの設立母体には零細事業者が多く、スプリンクラーの設置費用が運営上の重荷になりやすい点があげられる。そこで、国はスプリンクラー設置に際して、1uあたり9,000円の補助金を支給している。だが、グループホームの場合、「認知症の人が落ち着いて生活できる」というコンセプトなどから既存の古い家屋を活用するケースが多い。つまり、物件によっては工事の手間がかかり、費用が思いのほか跳ね上がる例も出てくるわけだ。
  だが、こうも立て続けに尊い人命が失われるとなれば、国としても手をこまねいてはいられない。国は今、精神科病棟などに長期入院していた認知症高齢者を「地域に戻す」施策を展開している。その受け皿の一つがグループホームであり、これが安全性への信頼を失うとすれば、認知症高齢者300万人時代に高齢者施策の根幹が崩れかねない事態となる。
  果たして、スプリンクラー設置の全面義務化を進めるのか。他に新たな施策を打ち出すのか。スピード感ある対応が求められている。
  
田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、「2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート」、「認知症ケアができる人材の育て方」(以上、ぱる出版)、「現場で使える新人ケアマネ便利帖」(翔泳社)など多数。
  
2013.02.28
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