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マダニによる新たな感染症が増加の見込み
● 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)とは
  新たな感染症が発見され、患者数がこれから増えていくことが懸念されている。それが、「重症熱性血小板減少症候群(以下、SFTS)」で、2013年2月26日現在で国内発症例が4例報告され、死亡例も出ている(なお、3月4日付で、感染症法上の四類感染症に位置付けられたことから、SFTSの患者を診断した医師は速やかに最寄りの保健所長を通じて届け出ることとされた)。
  これは、草地などに生息するマダニ(ダニの一種)を媒介して感染するもので、原因不明の発熱や下痢、嘔吐などの消化器症状のほか、時たま呼吸器症状や出血症状が見られることもあり、重症化すると死亡するケースもある。もともとは09年以降、中国での症例が相次いでおり、アメリカでも同型のウイルスによる症例が報告されている。
  日本での死亡例の患者には海外渡航歴はなく、一つは05年での国内感染で疑われており、もともと国内にウイルスが生息していた可能性も指摘されている。感染媒体とされるマダニだが、家庭内に生息するダニとは異なって3〜4mmと大型なのが特徴だ。生息場所として「草地」と述べたが、自然が豊かな地域だけでなく、市街地周辺でも見られ、日本では全国的に分布している。
● 風評に踊らされず冷静な対応が一番
  このSFTSウイルスに有効なワクチンはなく、何より「マダニに咬まれない」という予防が重要になる。厚労省のHPでは、草むらや藪などマダニが多く生息する場所に入る際には、長袖、長ズボン、足を完全に覆う靴を着用し、肌の露出を少なくすることが基本としている。また、マダニは皮膚にしっかりと吸着するため、咬まれた際に無理に引き抜こうとするとマダニの一部が皮膚内に残ることがある。咬まれた場合には、できるだけ早期に病院で処置してもらうことが必要だ。
  注意すべきは、マダニの活動が活発になるのが、春から秋というこれからのシーズンになることだ。これで臨床現場でSFTSが認知されるようになれば、患者数が急増することも考えられる。そうした場合、気になるのは、死亡という深刻な症例もさることながら、過剰な風評によるパニックだろう。
  日本では、農業・林業など草むらなどに入って仕事をするケースも多い。また、田園地帯では日常的にマダニが生息するような環境で生活が営まれていることもある。また、例えば、高齢者介護の現場では、園芸などを通じて機能訓練の一環としたり、認知症の周辺症状を抑えるなどの療法が導入されている光景も多い。SFTSによるパニックが広がることで、生産現場だけでなく、介護福祉の現場への影響も懸念される。
  ただし、考えてみれば、日本ではやはりダニの一種であるツツガムシによって媒介されるツツガムシ病などが昔から知られ、毎年死亡例も報告されている。警戒するのに越したことはないのと、かねてからの基本的な予防策の継続は重要ではあるが、冷静さを欠いた反応は逆にデメリットも及ぼしかねない。各種現場において予防策に対する知識と対応を徹底し、過剰反応から高齢者等の活動性が低下することは避けるべきだろう。
  
田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、「2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート」、「認知症ケアができる人材の育て方」(以上、ぱる出版)、「現場で使える新人ケアマネ便利帖」(翔泳社)など多数。
  
2013.03.14
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