>  今週のトピックス >  No.2598
社会保障改革、カギは財界の思惑と地域事情
● 社会保障給付の一層の効率化・重点化を求める経済団体
  今夏の参院選挙までに、社会保障制度改革の骨格が固まるのかが、大きな政策課題となっている。行方を左右するのが「社会保障制度改革国民会議」であり、8月21日の設置期限に向けた議論が急ピッチで進んでいる。
  これまでの流れとして、2月19日の第4回会合で、各経済団体・労働団体からのヒアリングが行われた。その後の2月28日の第5回会合では、全国知事会・市長会等の地方団体、そして財務省の財政制度等審議会からのやはりヒアリングが行われている。
  例えば、主要経済団体の一つである日本経済団体連合会の主張は、おおむね以下のようになっている。前提として、社会保障にかかる財源負担について、「家計や企業がさらなる負担増を受け入れることは限界」としたうえで、現状の放置は、「消費の抑制」→「生産コストの上昇」→「立地競争力の低下」→「雇用創出の阻害等」のスパイラルを生むとしている。その負担増を避けるために、社会保障給付の一層の効率化・重点化を進めることが必要という主張を展開している。
  介護保険を例にとると、「軽度者の訪問介護から生活援助(家事援助)を除外する」、「所得や要介護度に応じた負担率の設定(現在は1割負担だが、この負担率を見直すという趣旨)」などが掲げられている。医療についても、「70〜74歳の患者負担を1割から2割へと本則化する」などの提案がなされている。
  経済同友会などはさらに踏み込んでおり、例えば介護については、「要支援1・2、要介護1の利用者を介護保険給付から外す」、「自己負担割合を2割に引き上げる」などの主張を掲げている。経済団体としては、これまでも同様の主張を掲げてきた経緯はあるが、経済再生を旗印に掲げる現政権の誕生により、比較的通りやすい環境にあるとも言える。
● 財政安定化と地域格差解消を求める地方公共団体
  一方、現場に近い立場で社会保障を担う地方三団体(知事会、市長会、町村会)の主張を見ると、例えば、国保にかかる財政運営については、その不安定化と市町村格差の拡大への懸念が強い。加えて、医療や介護のサービス基盤にかかる格差の解消も訴えている。
  前者については、医療費等の適正化に加え、被用者保険との財政調整や公費投入等の組み合わせによって、制度の持続可能性を図るべきとしている。また、後者については、例えば、地域ごとの医師偏在が深刻化しつつある点を指摘しつつ、医師養成のあり方の見直しや勤務医のさらなる負担軽減策などを強く推進することが提言されている。
  こうした主張に対し、現状までの議論のとりまとめの中で、「地域によって事情が異なる医療・介護については、全国一本ではなく、地域ごとに人口動態の変化も踏まえ、地域経済など経済的側面も含め、議論を行なうべき」という一文が加えられている。選挙をにらみつつという事情もあってか、多方面の顔色を伺いつつという様相も漂っている。
  ただし、いずれにしても「制度の安定化」という課題は共通しており、「給付部分を徹底的に見直す」方向だけは確実に進むと言える。最終的には、「国民が受けられる医療・介護サービスの範囲」がどれだけ変わっていくのかが議論のポイントとなりそうだ。
  
田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、「2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート」、「認知症ケアができる人材の育て方」(以上、ぱる出版)、「現場で使える新人ケアマネ便利帖」(翔泳社)など多数。
  
2013.03.28
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