>  今週のトピックス >  No.2602
「依存症者」への支援に厚労省が着手
● アルコールや薬物などの依存症者は数十万人におよぶ!?
  医療や福祉の現場において、深刻な課題の一つとなっているのが「依存症者への対応」である。依存症というと薬物やアルコールなどが思い浮かぶが、加えてパチンコや競馬等の賭博への病的依存(病的賭博)などもあげられる。これらの依存症により、健康被害だけでなく、経済的な破たんや家族関係への亀裂などが深まり、あげくは自殺や心中といった悲劇につながるケースも多い。
  ちなみに、平成23年の患者調査によれば、実際に受診している範囲でのアルコール依存症患者は4万3,000人、アルコール以外の薬物依存症患者は3万5,000人にのぼる。だが、これはあくまで氷山の一角に過ぎず、厚生労働科学研究の調べでは、前者が約80万人、後者が約10万人に達するという。病的賭博に関しても、推定占有率は成人男性の約1割に達するという数字も示されている。
  例えば、様々な生活上の困難から相談援助職がかかわったとき、そこで初めて「依存症」が表に出てくるケースも多い。その場合、まず「依存症」という部分をしっかり治療・回復させないと、支援にかかる次の一手が打ちにくいという状況を目にする。逆に言えば、早期の段階から回復支援の手を的確に差し伸べることができれば、社会復帰支援の効果を上げることにもつながるわけだ。
● 「依存症は病気」という認識を広めることが必要
  こうした依存症者への相談支援等の充実を図るべく、厚労省は平成24年11月に「依存症者に対する医療およびその回復支援に関する検討会」を立ち上げた。国はこれまでも「薬物乱用防止」にかかる戦略や「常習飲酒運転者対策」あるいは「自殺総合対策」などを打ち出してきたが、依存症者への医療や回復支援を主眼としたものはなかった。
  同検討会はこれまで6回開催され、3月28日に報告書(案)が示された。検討されてきたポイントとしては、まず「本人や家族が気軽に依存症に関する相談ができる体制」を整備することで、早期に支援の手が差し伸べられる状況を作ること。そのうえで、「必要な医療を受け」→「医療・行政と自助団体との連携を強化し」→「当事者の状況に応じた回復プログラムへとつなげていきながら」→「同時に家族等への支援体制」を築くという、一連の流れが検討課題として示されている。
  加えて、今後重要になってくるポイントとして、地域における「依存症という病気」に対しての啓発活動が掲げられている。依存症の場合、「本人の意思が弱いから」といった個人のパーソナリティの問題ととらえてしまう偏見が強く、「病気」という認識が十分に浸透していない。そうした偏見が「しかるべき機関へ早期に相談する」という行動を阻み、回復期を迎えても「地域社会への復帰」へと十分につながらない状況をもたらしている。
  今回の検討会を受けて、今後は具体的な施策へとどうつなげていくかが課題になる。すでにある精神保健福祉センターなどと他の支援機関を、どのように連携させていくのかも地域レベルで考えなければならないだろう。行政内部でも、福祉分野、保健分野などの縦割りを排する改革がいっそう必要になる。
  
田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、「2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート」、「認知症ケアができる人材の育て方」(以上、ぱる出版)、「現場で使える新人ケアマネ便利帖」(翔泳社)など多数。
  
2013.04.04
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