>  今週のトピックス >  No.2614
働く人の「介護問題」、解決は道半ば
● 男性の介護休業取得者「ゼロ」の現実
  平成25年3月、東京都が「仕事と生活の両立支援の取組等 企業における男女雇用管理に関する調査」をまとめた。都内全域(島しょを除く)の従業員規模30人以上の事業所を対象としたもので、仕事と育児・介護等との両立の状況について調査したものだ。
  この中の介護問題について見てみると、仕事と介護の両立に関する将来的な不安について、男女とも8割以上が「不安を感じている」と回答している。不安の具体的内容としては、「肉体的・精神的負担の増加」が最も高く、次いで「仕事と介護を同時に行なうことによる時間的拘束」があげられる。さらに、3番目に多いのが「介護休業等の取得による収入減」で、不安を感じる人の約6割を占めている。
  調査では、この「介護休業制度」の活用実態にもふれているが、制度対象者のうち、実際に「取得した」という人はわずか4.3%で1割にも満たない(男性に限れば0%)。逆に言えば、親族に要介護者がいる人のうち、9割以上は「休業制度を利用しない」まま、仕事との両立に苦慮していることになる。
  育児休業制度も、男性に限れば取得者は8.4%と1割に満たないが、女性に限れば9割以上が取得している。ところが、介護休業となると、女性も7.9%と低調具合が目立つ。仕事と介護の両立に不安を感じている人が8割以上という中で、介護休業の取得とのギャップがこれだけ大きいということは、やはり職責や経済的な問題が大きなネックといえる。
● 人材喪失を防ぐためにも、企業による制度支援が望まれる
  ちなみに、現行の介護休業制度は、対象となる要介護者1人あたり通算で93日取得できる。その間の給与は必ずしも保障されないが、その代わり雇用保険法における介護休業給付を受けることが可能だ。とはいえ、給付額が賃金月額の40%となっているので、いずれにしても収入減となるのは避けられない。
  この場合、公費で減収分を穴埋めするという考え方が浮上しがちだが、社会保障費の効率化が大きな政策課題になっている現状では難しい道筋といえる。むしろ、介護休業の取得期間を短く切り上げることができるよう、介護保険サービスの活用へとスムーズにつなげられる体制がポイントになってくるだろう。
  例えば、事業所内の総務担当部署から介護保険制度の情報提供をうながしたり、相談を受け付けたりする。また、(これは制度改正が必要だが)事業所で介護保険申請を代行できるようにし、働きながらでもサービス利用の入口を進めていく仕組みづくりも考えられる。
  ただし、現状を見ると、各事業所における従業員の「介護状況」の把握について、約3割の事業所が「介護問題を抱える従業員の存在を把握できていない」と回答している。これは、「介護を行なっている従業員がいない」(22.1%)を上回っている。まずは、事業所として従業員の家庭状況に耳を傾け、相談しやすい風土を築くことが大前提だろう。
  家族の介護・看護を理由に離職・転職した人の数は、年間15万人レベルに達している(内閣府「平成24年版 高齢社会白書」より)。貴重な人材を「介護」によって失うことは、事業所としても大きな損失となる点を意識しなければならない。
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田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、「2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート」、「認知症ケアができる人材の育て方」(以上、ぱる出版)、「現場で使える新人ケアマネ便利帖」(翔泳社)など多数。
  
2013.04.25
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