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平成24年度査察の脱税総額は約205億円と低水準続く
● 着手件数は42年ぶりの低水準の190件
  いわゆる「マルサ」と呼ばれる査察は、脱税でも特に大口・悪質なものに対して犯罪捜査に準じた方法で行われる特別な調査で、検察当局に告発されて刑事罰の対象となる。
  国税庁がこのほど公表した平成24年度査察白書によると、査察で摘発した脱税事件は前年度より5件少ない190件、脱税総額は平成以降最低だった前年度を約13億円上回る約205億円と低水準が続いている。1件当たりでは同500万円多い1億700万円。検察庁に告発した件数は同12件多い129件だった。
  今年3月までの1年間(平成24年度)に、全国の国税局が査察に着手した件数は190件と、42年ぶりの低水準となった。継続事案を含む191件(前年度189件)を処理(検察庁への告発の可否を最終的に判断)し、うち67.5%(同61.9%)にあたる129件(同117件)を検察庁に告発した。この告発率67.5%は、前年度を5.6ポイント上回るが、前年度は38年ぶりの低水準だったもので、高い割合ではない。
● 脱税総額はピークの約29%まで減少
  告発事件のうち、脱税額(加算税を含む)が3億円以上のものは前年度を1件上回る11件、脱税額が5億円以上のものは横ばいの3件だった。近年、脱税額3億円以上の大型事案が減少傾向にあることから、平成24年度の脱税総額205億円は、ピークの昭和63年度(714億円)の約29%にまで減少している。
  告発分の脱税総額は前年度を約18億円上回る約175億円、1件あたり平均の脱税額は同100万円増の1億3,500万円だった。
  告発分を税目別にみると、「法人税」が前年度から15件増の79件で全体の61%を、脱税総額でも同28%増の約101億円で58%を占めた。所得税は同13件減の22件で、脱税総額は同29%減の約29億円、相続税は同4件増の10件、同12%減の約23億円、消費税は同4件増の12件、同114%増の約15億円となった。消費税の脱税額のうち約7億円は消費税受還付事案(ほ脱犯との併合事案を含む)のものである。
  告発件数の多かった業種・取引(5件以上)は、前年度は6件だった「情報提供サービス業」が11件に増え、「クラブ・バー」とともに最多だったほか、前年度9件でトップだった「建設業」が7件、「不動産業」と「医療業」がともに4件で続いた。経済社会情勢を反映し、出会い系サイトなどの「情報提供サービス」や「建設業」、「不動産業」での告発が目立った。
● 査察での告発事案は100%有罪、3人に実刑判決
  査察で調査にあたる国税査察官には、裁判官の発する許可状を受けて事務所などの捜査をしたり、帳簿などの証拠物件を差し押さえたりする強制捜査を行う権限が与えられる。この査察調査は、単に免れた税金や重加算税などを納めさせるだけでなく、検察への告発を通じて刑罰を科すことを目的としている。
  刑罰とは懲役や罰金だが、実をいえば以前は、実刑判決はなかった。つまり、執行猶予と罰金刑で済んでいたのだが、懲りない面々に対し“一罰百戒”効果を高めるため、1980年に初めて実刑判決が出されて以降は、毎年実刑判決が言い渡されている。
  平成24年度には、一審判決が言い渡された120件のすべてに有罪判決が出され、うち3人に対し執行猶予がつかない実刑判決が言い渡された。1件当たり犯則税額は7,600万円だったが、平均の懲役月数は13.0ヵ月、罰金額は約1,600万円だった。
  査察の対象選定は、脱税額1億円が目安といわれ、また、脱税額や悪質度合いの大きさが実刑判決につながる。査察で告発されると、社会的信用を失うだけでなく、巨額な罰金刑や実刑判決もありうる。ちなみに、刑罰は10年以下の懲役に、罰金は1,000万円(脱税額が1,000万円を超える場合は、脱税相当額)以下となっている。
参考:平成24年度査察の概要(国税庁)
http://www.nta.go.jp/kohyo/press/press/2012/sasatsu_h24/index.htm
  
浅野 宗玄(あさの・むねはる)
株式会社タックス・コム代表取締役
税金ジャーナリスト
1948年生まれ。税務・経営関連専門誌の編集を経て、2000年に株式会社タックス・コムを設立。同社代表、ジャーナリストとしても週刊誌等に執筆。著書に「住基ネットとプライバシー問題」(中央経済社)など。
http://www.taxcom.co.jp/
○タックス・コム企画・編集の新刊書籍「生命保険法人契約を考える」
http://www.taxcom.co.jp/seimeihoujin/index.html
  
2013.07.08
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