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社会保障改革で考える日本の現状
  これからの日本の社会保障のあり方を決める「社会保障制度改革国民会議」(以下、国民会議)の議論が盛んに行われている。高齢化が進む中、限られた財源を有効に活用して持続可能な社会保障への道筋を是非ともつけていただきたいものだが、この国民会議で提示されている資料が非常に興味深く、ここに紹介させていただこう。
● 社会の中心となるべき世代が高齢者より貧しい現実
  まずは、「世帯主の年齢別に見た1人あたりの可処分所得」を見てみよう。可処分所得とは労働の対価として得た給与など個人所得から税金・社会保険料などを除いた金額、つまり個人が自由に使えるお金がどのくらいなのかを見るものだが、それを可処分所得の多い順に並べてみた。なお、国民会議ではこのような見せ方はしていない。

【世帯主の年齢別の世帯1人あたり平均可処分所得】
1 50〜59歳 189.1万円
2 60〜69歳 178.3万円
3 80歳以上 159.8万円
4 40〜49歳 156.5万円
5 70〜79歳 155.0万円
6 29歳以下 137.5万円
7 30〜39歳 136.6万円
     (社会保障制度改革国民会議 第9回資料より)

  ひと目見てわかるように、高年齢世代が上位にきている。国民会議でも「年齢別に見た場合の可処分所得は高齢者世帯が特に低いわけではない」と結論づけている。
  確かにそのとおりなのだが、この表でいちばん注目してほしいのは「30〜39歳」が最下位に位置していることだ。この世代は子どもの教育費用や住宅費用など、さまざまな出費が控えている。この年齢層が「80歳以上」の世代よりも年間20万円以上も自由に使えるお金が少ないというのはライフプラン上の視点からもいかがなものであろうか。
  現実に、国民会議の中でも「現役世代支援に軸足を移しながら、持続可能な社会保障を目指すべき」とする意見が出ていることを伝えておきたい。
● 健康保険組合の貧富の差も激しい
  次に、「介護納付金」のデータだ。介護保険の給付は「税金50%・保険料50%」の財源構成でまかなわれている。この「保険料50%」は、さらに「(高齢者負担21%)vs(現役世代負担29%)」という人数比(65歳以上2,910万人、40〜64歳4,263万人)で分けられており、これを各医療保険者が納入する。この負担のことを「介護納付金」という。
  そして、この「40〜64歳の現役世代の負担割合の29%」も、さらにそれぞれの医療保険加入者の人数に応じて振り分けられている。つまり、「全体の金額を頭割り」にしているということだ。それを国民会議では、「29%の負担」を「人数割り」から報酬の多寡による「総報酬割」にしようとしている。
  これは「今までは全員一律だったけど、お金に余裕のある人たちの組合はその分多く負担してね!」ということに変えるということで、これらを、整理したのが以下の表だ。

【健康保険組合の第2号被保険者1人あたりでみた負担額と報酬額の比較】
1人あたり報酬額
(年額)
現行の1人あたり
負担額(月額)
総報酬割とした場合の1人あたり
負担額(月額)
 上位10組合平均  827万円 4,463円 9,427円
下位10組合平均 274万円 3,127円
※1人あたり負担額は労使含めた月額
                            (社会保障制度改革国民会議 第9回資料より)

  現在の負担は人数割りなので、上位組合だろうが、下位組合だろうが、1人あたりの負担額は変わらない(平均4,463円)。しかし、総報酬割にすることによって上位組合では負担が2倍以上(4,463円→9,427円)になってしまう。片や下位組合は負担が減り、同じ健康保険組合とはいえ、上位と下位の負担額の開きは3倍以上(9,427円 vs 3,127円)になることがわかる。
  なお、この資料は「介護納付金」のことだけを示しているのであり、そのほかに現役世代が負担しなければならない「後期高齢者医療制度」に対する負担金などは別にあることを忘れてはならない。
● 「もたれ合い」から「支え合い」へ
  国民会議の論点の整理の中に「際限のない高齢者向け給付の増大は現役世代の生活設計を破綻させるため、『年齢別』から『経済力別』へ負担の原則を転換すべき」という記載がある。今の日本は、すでに「若い世代は支える側で、高齢者は支えられる側」という理論は通用しない状態になっているのだろう。
  同じように、「『もたれ合い』の構造を『支え合い』の構造に持っていく必要がある」という厳しい意見も書かれている。
  これからの短い期間でさまざまなことがバタバタと決まっていくだろう。現役世代も「もたれ合い」をよしとせず、自らの意志で立ち上がり「支え合い」に参加できる一員となっていきたいものだ。
2013.07.16
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