>  今週のトピックス >  No.2704
なぜ要支援サービスが狙われているのか?
● 「要支援1・2」は介護保険から切り捨てられるのか?
  今週のトピックスNo.2698(9月26日更新)でも取り上げていたが、社会保障制度改革国民会議の報告を受け、介護保険の「要支援1・2」の給付が、市町村が運営する「地域支援事業」に移行するという案に注目が集まっている。本稿では、厚生労働省が「要支援1・2」を移行させる議論の経緯について述べたい。
  地域支援事業とは「要支援・要介護状態となることを予防するとともに、要介護状態等となった場合においても、地域において自立した日常生活を営むことができるよう支援すること」を目的に、各市町村が実施している事業だ。この運営主体が「国」から「市町村」へ移るだけで、「介護保険から要支援1・2が切り捨てられる」と思われてしまうのはなぜだろう。その主な理由として考えられるのが、事業規模が違いすぎることである。
介護予防給付 約4,100億円
地域支援事業 約1,570億円
  平成23年度において「要支援1・2の介護予防給付」の事業規模は約4,100億円。一方の「地域支援事業」は約1,570億円に過ぎず、3倍近い開きがある。現行の地域支援事業は、介護給付見込額の3%以内の事業費に抑えなければならないという制約があり、厚生労働省はこの上限設定を見直す必要があるとは言っている。しかし、議論は始まったばかりで、様々な憶測のうえに「切捨て」という報道になってしまっているのだと思われる。
● 要支援のサービスは、求められているニーズに応えきれていない
  では、なぜ厚生労働省は批判を受けながらも「要支援1・2の介護予防給付」を「地域支援事業」へ移そうとしているのだろう。
  現在の「要介護1・2のサービス」は、種類・内容・運営基準・単価は国が定めている。利用できるサービスであれば「介護予防訪問介護」や「介護予防訪問入浴介護」などで、利用できる1ヵ月の限度額であれば「要支援1は4万9,700円」「要支援2は10万4,000円」(自己負担は1割、地域により多少の差あり)と、ほぼ全国一律だ。
  しかし、支援を必要とする高齢者が困っていることは、「買い物」や「家の中の簡単な修理」のほか、「掃除」「通院の付き添い」「ごみ出し」など、定型的な公的介護保険のサービスになじまない生活支援的なものが多い。したがって、要支援者に対するサービスに「生活支援サービス」を組み入れ、より地域の実情に応じたサービスを受けてもらおうというのが厚生労働省のねらいである。
  そのサービスの提供者は、従来の介護サービス事業者に限定するものではなく、ボランティアであったり、NPO法人であったり、元気な高齢者であったりと、多様な主体の参加を求めていて、サービスの内容や単価設定についても、全国一律のものではなく、地域の実情を把握している市町村が主体的に決めるべきもの、というのが厚生労働省の見解だ。そのため「要支援1・2の介護予防給付」について、市町村が運営している「地域支援事業」へ移行させようとしているのだ。
● 目標は平成27年度からのスタート
  これらの変更には法律改正がもちろん必要だ。厚生労働省では平成27年度から始まる「第6期介護保険事業計画」には移行を考えており、そのための法律案を平成26年の通常国会に提出することを目指して社会保障審議会介護保険部会で議論を重ねている。
  「要支援1・2」の給付が市町村の事業になるということは、地域の実情に合わせた給付を提供できる反面、市町村ごとの格差が生じてしまうということも意味する。我々自身の将来のためにも、議論の行く末を見守りたいものだ。
参照 厚生労働省第47回社会保障審議会介護保険部会資料
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000020995.html
2013.10.07
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