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特養ホームの入所制限「要介護3以上」案
● 今、問われる特養ホームの入所制限
  高齢者介護において重要な受け皿となる特別養護老人ホーム(以下、特養ホーム)だが、高齢化の進展にともなう需要増により、申し込みをしても入所できない待機者は約42万人にのぼる。
  これに対し、先の社会保障制度改革国民会議では「特養ホームの入所者を中重度に特化する」方針が掲げられた。
  これを受け、9月18日に開催された社会保障審議会・介護保険部会では、厚労省より「既入所者の継続入所にも配慮しつつ、特養ホームへの入所を要介護3以上に限定すべきではないか」という具体案が示されている。
  要介護3以上という具体的なラインの背景としては、現入所者の重度化が進んでおり、平成23年の段階で要介護3以上が88%にのぼるという数字がある。
  特養で最期を迎える高齢者も増える中、看取り体制の強化を同時に進めることも提案されており、入所者を要介護3以上に特化することで、施設のあり方そのものの見直しも示唆されている。
  では、要介護1・2(要支援認定者については現行でも入所対象から外される)の人の受け皿はどうなるのか。
● 入所制限から見えてくる問題点
  厚労省は、要介護1・2の人の特養ニーズとして「介護者不在(同居家族の不在)」や「住宅問題」等があるのに加え、低所得者層も多いという現状を掲げている。
  そのうえで、「軽度の要介護者を含め、自立した生活をおくることが困難な低所得者」に対し、見守り等の生活支援サービスが提供される低廉な家賃の住まい整備を図るとしている。
  しかしながら、要介護1・2の単年度の入所者は、割合的には低いとはいえ、約1万6,000人にのぼる。毎年、それだけのニーズを吸収できるサービス付きの低家賃住宅の整備が現実的に可能なのかどうか。
  厚労省は、全国で増えつつある空き家等の資源活用や、登録制度の創設でやはり急増したサービス付き高齢者向け住宅の適正運用を図るとしているが、特に前者については「私的財産の権利移動」などがかかわるゆえに、どこまで踏み込んだ施策に反映できるかは不透明だ。
  今回の「要介護3以上」の案に対し、特養ホームの業界団体である全国老人福祉施設協議会は、一律の入所制限に強く反対する声明を出した。
  その背景として、軽度の入所者の中にも認知症による様々な精神症状を有するケースが多々含まれているなどを掲げ、「緊急入所」などのセーフティネットの確保という視点からも「入所判定は事業者の主体性に任せるべきである」というものだ。
  確かに、認知症による精神症状(BPSDなど)が激しい人であっても、要介護認定が比較的軽く出てしまうケースがある。
  一つには、要介護認定のカギとなる意見書を作成する医師による、認知症診断の正確性がいまだ十分とは言えない状況も指摘されている。
  仮に相応の認知症がありながらも特養ホームに入れず、民間の住まいに移ることになった場合、「認知症があるから入所は断る」などの問題が出てこないのかどうか。
  そのあたりを含め、「要介護3制限」に対する賛否の議論は今後も激しさを増すことが予想される。
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田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、「2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート」、「認知症ケアができる人材の育て方」(以上、ぱる出版)、「現場で使える新人ケアマネ便利帖」(翔泳社)など多数。
  
2013.10.24
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