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「メール調査」が税務調査の主流に
● 業務用メールの管理は慎重に
  毎年秋といえば税務調査がピークを迎える時期だが、調査の現場ではいま、「メール調査」が主流となっている。メール調査とは、税務調査に入った企業のパソコンから怪しい電子メール情報を抜き出して、申告漏れ等の端緒を掴む調査のことだ。電子帳簿保存法を根拠とした手堅い調査手法で、近年の税務調査では欠かせない存在となっているという。
  調査にあたっては、まず必要な情報を抽出するため、不正に関連する可能性のあるキーワードを検索して怪しいメールを絞り込む。使われるキーワードは、「売上」、「仕入」、「棚卸」、「現金」、「調整」、「口座」、「決算」、「報告」、「利益」、「税務」など。注文方法や店舗名、得意先名などもキーワードになる。
  こうして絞り込んだメールについて一つひとつ検討を開始する。売上注文メールでは売上除外されたものはないか、受注確認メールでは振込先に簿外預金口座が記載されたものはないか、仕入発注メールでは除外された売上に対応するものはないかなどを見ていくという。
  会社のメールから把握できる情報は、顧客からの注文、事業者間取引の見積もりや受発注、請求書や納品書の添付、受領や支払の確認、代表者等から社員等への業務指示、支店・工場等から本社への業務報告などがある。メールにはかなりの情報が詰まっていることから、メール調査を足がかりとして大きな不正が見つかるケースは少なくないという。そういう意味では誤解を招くような内容はメールにしないなど、業務用メールの管理は慎重に行う必要がありそうだ。
● メール調査で見つかるおもな不正は
  このように、「メール調査」は膨大な量のメールから申告漏れ等の情報が含まれていそうなメールをキーワード検索などで絞り込み、ヒットしたメールを一つひとつ検討していく。根気のいる作業だが、メール調査を端緒として不正が発見されるケースは後を絶たないという。
  例えば、海外法人を利用した架空手数料をメールから把握した事例がある。メール調査に国境はないため、海外支店や海外の取引先とのメールのやり取りも簡単に把握できる。近年、中小企業の海外進出が進む一方で、海外取引を利用した不正も増加の一途をたどっている。メール調査は、経済取引の国際化にも対応できる有力な調査手法といえる。
  メールから仕入先を利用した架空仕入を把握した事例もある。架空仕入は極めてスタンダードな不正手口だ。帳簿上では読み取れなくても、メールのやり取りからその事実を把握できるケースは少なくないという。
  メールを端緒に棚卸除外や架空給与を把握した事例も多い。とりわけ棚卸除外は「使いやすい手口」といえるだろう。決算期末の状況を見て動けるし、なにより取引先と通謀する必要がない。第三者に迷惑をかけないというお手軽さがウケているのか、常に不正手口の上位に入っている。
  このほか、架空の覚書をプロパティの日付とメールの内容により裏付けた事例なども少なくない。キーワードで絞り込まれたメールをさらに精査することにより、数多くの不正があぶりだされる。この秋の税務調査シーズンでも、メール調査が盛んに行われているという。
  
浅野 宗玄(あさの・むねはる)
株式会社タックス・コム代表取締役
税金ジャーナリスト
1948年生まれ。税務・経営関連専門誌の編集を経て、2000年に株式会社タックス・コムを設立。同社代表、ジャーナリストとしても週刊誌等に執筆。著書に「住基ネットとプライバシー問題」(中央経済社)など。
http://www.taxcom.co.jp/
○タックス・コム企画・編集の新刊書籍「生命保険法人契約を考える」
http://www.taxcom.co.jp/seimeihoujin/index.html
  
2013.11.11
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