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相続税対策のキホンは“家族円満”にあり?!
  相続税を支払わなければならない多くの人は税の支払い額を抑えるために、小規模宅地の評価減を利用して土地の評価を下げたり、有価証券の価額を低くするにはどのタイミングで評価するかなど、相続税対策に思いを巡らせている相続人も少なくありません。
  でもこれらは、相続手続きがスムーズに行った場合に限られます。逆に、遺産分割で揉めるなど相続手続きがスムーズにいかなかった場合、相続税の課税に悪影響を及ぼすこともあります。そのようなケースを紹介しましょう。
● まとまらない話し合い
  今年、相続税の申告を済ませたB子さんのケースです。B子さんの実家は関東近郊で代々地主をしていましたが、昨年夏に父親のYさんが亡くなりました。Yさんの妻は10年前に他界していますので、相続人はYさんの子どものA男さんとB子さんの2人です。しかし、遺産分割協議の話し合いがまとまらず調停をすることに……。一次相続より子どもたちだけで遺産分割をする二次相続のほうが揉めやすいと言われていますが、まさに典型的な例です。
  「調停での話がまとまったのは、私が大幅に妥協したからなんです」とB子さん。面倒なことはすぐに終らせたいと思ったことと、相続税の申告・納税期限がYさんの亡くなった日の翌日から10ヶ月以内ですので、家庭裁判所から調停調書が届くとすぐに相続関連の手続きを開始し、納税期限3ヶ月前に相続税を納めました。
  納税期限からしばらく経ってB子さんのもとへ税務署から「すぐに税務署へ来てください」という電話が入りました。一瞬、B子さんは自分の申告内容に不備があったのかと不安になりましたが、どうやら兄のA男さんが相続税を未納のようす。ちなみに納税も個人情報にふくまれるため支払いの有無は教えてはくれませんが、「察してください」という口調から、おそらくA男さんが相続税を支払っていないため、B子さんから申告内容などを聞き取りたいようでした。税務署の担当者から、B子さんが相続財産をどのように評価したか、A男さんとの現在の関係、A男さんの仕事のことなどを問われ、B子さんは問われるままに答えていきました。
● 相続税は連帯債務だけど・・・
  「相続税は連帯債務といわれていますので、自分が兄の分まで税金を払うのかとビックリしました」とB子さん。
  FP等の勉強では、相続税は連帯債務だから、納税義務者の誰かが払わなかったら他の人が払うと学習した人も多いと思います。ただしそれは、未納者が財産を持っていない場合のみになります。今回のケースでは、調停を経ているため、A男さんに財産があることは明らかです。税務署は個人情報を守る代わりに、本来の未納者から納税してもらうように動くというのが正しい答えになります。正直者がバカを見るようなことにはならないようです。
  B子さんとしては調停の内容が納得できないものだったので、税務署の担当者へ分割財産として計上できなかった資金の移転(遺産分割協議前にA男さんが使い込んでしまったYさんの預金など)についても言及してしまいました。その結果、税務署はその財産も課税対象として調査することに! このためA男さんの相続財産は増えるとともに、B子さんが申告したA男さんの相続税額よりも多くの金額を納税する必要が出てきました。悪質な滞納とみなされ、重加算税の対象にもなるようです。
● 仲良くしないと税金が増える?
  B子さんが税務署で思ったことは、仲の良い家族であったら相続税を抑えるために協力しあうことができるのに、というもの。相続の手続きは、土地がある場合には測量なども必要になるため、相続人が全員で費用の負担をしたり、節税のための工夫もできるハズです。逆に家族の仲が悪い場合は、それぞれのコストが増えることは必至であるといえます。
  FPの相談業務や保険をセールスする場合、相続税の納税資金対策や遺産分割対策として生命保険の加入を勧めていますが、節税に特化した小手先のテクニックに頼ることは危険です。相続税額の試算や分割のアドバイスとともに、過去の贈与の有無のヒアリングや生前贈与、遺言書作成等のアドバイスも欠かすことはできません。大切なのは、相続人間の関係性を考慮したうえで提案することではないかと実感しました。
  
飯田 道子(いいだ・みちこ)
海外生活ジャーナリスト/ファイナンシャル・プランナー(CFP)
  金融機関勤務を経て96年FP資格を取得。各種相談業務やセミナー講師、執筆活動などをおこなっている。主な著書には、「宅建資格を取る前に読む本」(総合資格)、「介護経験FPが語る介護のマネー&アドバイスの本」(近代セールス社)などがある。
  海外への移住や金融、社会福祉制度の取材も行う。得意なエリアは、カナダ、韓国など。
  
2013.11.21
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