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相続税調査事績発表、約1万件から3,347億円の申告漏れ
● 実地調査1件当たり申告漏れは2,741万円と高額
  国税庁がこのほど発表した相続税調査事績によると、今年6月までの1年間(平成24事務年度)に平成22・23年中に発生した相続を中心に1万2,210件(前事務年度比11.4%減)を実地調査し、うち81.6%に当たる9,959件(同10.8%減)から3,347億円(同16.2%減)の申告漏れ課税価格を把握し、加算税83億円を含め610億円(同19.4%減)を追徴した。実地調査1件当たりでは、申告漏れ2,741万円、追徴税額500万円だった。
  また、申告漏れ額が多額であったり、故意に相続財産を隠ぺいしたことなどにより重加算税を賦課した件数は1,115件(前事務年度比28.9%減)で、その重加算税賦課対象額は436億円(同24.9%減)だった。
  申告漏れ相続財産の金額の内訳を構成比でみると、「現金・預貯金等」が37.2%(金額1,236億円)を占めてトップ、次いで「土地」(16.9%、560億円)、「有価証券」(13.0%、431億円)などが続いている。
  実地調査件数が減少したのは、今年1月に改正国税通則法が施行され、税務調査手続きが明確化されたことから、投下事務量が増え、調査1件当たりに要する日数が増加したことが要因となっている。
● 海外資産関連・無申告事案を重点調査
  国税当局では近年、納税者の資産運用の国際化に伴い、海外の金融機関に預貯金や株式を預けたり、資産を運用したりする富裕層がその資産(遺産)を隠匿するケースが見られることから、資料情報や相続人・被相続人の居住形態等から海外資産の相続が想定される事案について積極的な調査を展開している。また、申告・納税義務があるにもかかわらず申告しない者も後を絶たないことから、無申告事案の調査にも力を入れている。
  平成24事務年度は、海外資産関連事案として前事務年度より2.7%少ない721件を調査し、その結果国内資産の申告漏れを含めて537件(前事務年度比5.5%減)から218億円(同27.4%減)の申告漏れ課税価格を把握した。重加算税を賦課された事案も68件(同1.4%減)把握され、その対象額は36億円(同24.1%減)にのぼった。1件当たりの申告漏れ課税価格は4,051万円と高額であった。
  一方、無申告事案についても前事務年度より16.3%少ない1,180件の実地調査を行い、うち866件(前事務年度比7.1%減)から1,088億円(同10.3%減)の申告漏れ課税価格を把握し、加算税13億円を含め73億円(同14.8%減)を追徴した。1件当たりの申告漏れ課税価格は9,223万円(同7.1%増)と、相続税調査全体の1件当たりの申告漏れ課税価格2,741万円の約3.4倍にのぼり、高額な海外資産関連をさらに上回った。
● 悪質な無申告事案では高額な追徴課税も
  調査事例をみると、多額の預金を隠ぺいし、基礎控除額以下を装って無申告だったものがある。会社役員だった被相続人A(夫)については、資料情報から多額の蓄財が想定されたものの、相続税の申告がなかったため、調査対象とされた。
  調査の結果、相続人B(妻)は、Aの入院を契機として、将来発生する相続税の課税を逃れることを目的に、A名義の預金口座から多額の現金を引き出し、B名義の貸金庫や自宅に隠していたほか、出金事実を隠ぺいするため、A名義口座を解約し、同口座の通帳を破棄していた事実が判明した。
  Bは、相続財産の合計額が基礎控除を超えていることを認識していながら、これらの現金を相続財産から除外して、相続税の申告をしていなかった。調査の結果、Bに対しては、申告漏れ課税価格約3億2,600万円(うち、重加算税対象額約1億8,800万円)について、加算税を含め約9,000万円が追徴された。
参照 国税庁:平成24事務年度における相続税の調査状況
http://www.nta.go.jp/kohyo/press/press/2013/sozoku_chosa/index.htm
  
浅野 宗玄(あさの・むねはる)
株式会社タックス・コム代表取締役
税金ジャーナリスト
1948年生まれ。税務・経営関連専門誌の編集を経て、2000年に株式会社タックス・コムを設立。同社代表、ジャーナリストとしても週刊誌等に執筆。著書に「住基ネットとプライバシー問題」(中央経済社)など。
http://www.taxcom.co.jp/
○タックス・コム企画・編集の新刊書籍「生命保険法人契約を考える」
http://www.taxcom.co.jp/seimeihoujin/index.html
  
2013.12.09
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