>  今週のトピックス >  No.2754
介護保険の補足給付見直しがもたらす影響
● 資産や非課税収入があっても受けられる補足給付
  平成27年度に予定される介護保険制度の改革において、一定所得以上の利用者負担を2割に引き上げる議論が注目を集めているが、この「利用者負担」という点について、実はもう一つ大きな見直しが進もうとしている点に注目したい。それが「補足給付の見直し」だ。
  まず補足給付について整理しておこう。特養ホームなどの介護保険施設を利用した場合(ショートステイ利用も含む)、居住費および食費は全額自己負担となっている。ただし、住民税非課税世帯については負担限度額を設定し、国が定める標準負担額との差額について介護保険からの給付がなされる。これを補足給付(特定入所者介護サービス費)という。
  補足給付の対象である「住民税非課税世帯」とは、あくまで課税所得のみを勘案しており、資産や非課税収入があっても給付が行われている。この点を見直し、資産等の適正な評価を行ったうえで給付の公正化を進めようというのが今回の論点である。
  具体的には、一定額を超える預貯金や一定評価額を超える不動産を所有している場合は、補足給付の対象から外すというもの。また、課税所得のある配偶者がいる場合にも、民法上の「配偶者間の相互扶助義務」を根拠として、やはり補足給付の対象から外していく方向が示されている。
● 補足給付を受けると保有資産が“丸裸”になる!?
  ただし、これらの見直しを進めていくうえでは、様々なハードルをクリアしなければならない。まず預貯金額の確認方法だが、現状において預貯金等の金融資産を網羅的に把握できるしくみはなく、原則としては本人からの自己申告に頼らざるをえない。ここで公平性という点が問題になってくる。
  この点について厚労省は、以下のような仕組みを想定している。まず自己申告に際し、不正受給には加算金が生じる旨を補足給付の申請書に明記しておく。そのうえで、通帳の写し等を添付したり、必要に応じて金融機関に預貯金調査を依頼するというものだ。このあたりは介護保険法(第203条)の規定に準拠している。
  もう一つは不動産の扱いだ。仮に一定評価額を超える不動産を所持していたとしても、それをすぐに処分して現金化することは難しい。そこで厚労省が検討しているのは、不動産を担保とした貸付制度である(このケースにおいては、ショートステイは除く)。具体的には、特定の金融機関などに貸付業務を委託し、不動産を担保として介護保険の財源から貸付金をねん出したうえで毎月本人に振り込むというものだ。仮に対象不動産が担保割れ等で回収不能となった場合には、その段階で事後的に補足給付が発生するという流れとなる。
  いずれにしても、こうした見直しが現実となった場合、利用者としては補足給付を受けるに際して保有資産を「丸裸」にしなければならない。気になるのは、そこで施設サービスの利用控えが起こらならないかという点だ。
  特に問題となるのがショートステイの利用控えだろう。施設入所が難しくなっている状況で「在宅介護」を選択せざるをえない傾向は今後も進んでいく。そのとき、家族の介護倒れを防ぐカギは、やはりショートステイの利用にある。今回の検討案では、不動産資産の勘案についてショートステイは除かれるが、預貯金把握の流れは対象となる。その手続きが煩雑になったり給付から外されるケースが増えるとすれば、利用ハードルが上がり、特に低所得世帯にとっては八方塞がりの状況を生みかねない。今後の議論次第だが、生活防衛の視点で自己資産の棚卸しをしっかり行なっていくことが求められている。
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田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、「2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート」、「認知症ケアができる人材の育て方」(以上、ぱる出版)、「現場で使える新人ケアマネ便利帖」(翔泳社)など多数。
  
2014.01.16
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