>  今週のトピックス >  No.2762
深刻化する介護職員による虐待。背景は?
● 身内による虐待は減少傾向の一方で職員による虐待は増加へ
  平成18年に施行された高齢者虐待防止法に基づき、厚労省は毎年「同法に基づく対応等に関する調査」を行なっている。昨年12月に最新となる平成24年度の調査結果が公表された。
  家族など親族による虐待ケースは相談・通報件数、判断件数(行政が「虐待」と判断したケース)ともに前年度に比べて減少傾向にある(ケースが潜在化している可能性もあるので、楽観視はできない)。その一方で、介護施設などの職員によるケースは、相談・通報、判断ケースともに調査開始の平成18年度以降でもっとも高い数字を記録した。
  介護施設などの職員は、いわば支援のプロである。その「プロ」が、利用者である要介護高齢者への虐待に関与する──そうしたケースが右肩上がりの状況は、介護の社会化がますます必要になる時代に、社会全体の大きな不安要素になりかねない。なぜ、こうした職員による虐待が増えているのだろうか。
  虐待の内訳をみると、言葉や態度による心理的虐待よりも、高齢者の身体にダメージを与える身体的虐待が多い。具体的には、暴力的行為のほか、「本人の利益にならない強制による行為、代替方法を検討せずに高齢者を乱暴にあつかう行為」や「『緊急やむをえない』場合以外の身体拘束」も含まれる。
  仮説として浮かび上がるのは、一時的な感情の爆発で暴力にいたるだけでなく、誤った業務・倫理解釈から生じているケースもあることだ。この場合、職員側が「虐待をしている」という意識に至っていない可能性も浮かぶ。きちんとした業務・倫理教育がほどこされないと、「意識しない」ゆえに、日常的に繰り返される恐れも出てくることになる。
● 職員の「教育・知識・介護技術等」のレベルアップが課題
  では、こうした事態が生じる背景には何があるのか。今回の調査から「虐待の発生要因」という項目が追加されている。それによれば、「教育・知識・介護技術等に関する問題」が半数以上を占め、「職員のストレスや感情コントロールの問題」や「虐待を行った職員の性格や資質の問題」を上回っている。明らかに虐待者個人の資質よりも「職場内教育などに関する組織的課題」が強いことがわかる。つまり、組織における構造的な問題を放置することで、どこでも起こりうるわけだ。
  この状況をどこまで改善することが可能なのか。周知の通り、多くの介護現場は労働量の割に待遇は決して厚くない。景気が少しよくなると、より待遇のいい他業界に転出するなど人材が流動化する。そのため、一定以上の経験をもって正しいスキルを身につける機会が乏しく、また、それを指導できるベテランも不足する。現に、ここ1年ばかりの景気浮揚とともに、多くの現場で目立つ傾向だ。
  こうした状況を考えたとき、国が進めている様々な現任者研修(介護福祉士取得に向けた実務者研修もスタートする)の体系内で、「虐待防止」を軸としたカリキュラムを手厚くしていくことも必要になる。できれば、現場に指導者を派遣してOJTを通じた研修なども充実していくことが望ましいだろう。
  人口の高齢化とともに介護保険料はますます上昇することが予想される。国民がそれを納得するためには、「プロの介護」への信頼感を高めなければならない。職員による虐待を防ぐことは、介護保険制度の存続にもかかわってくることになる。
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田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、「2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート」、「認知症ケアができる人材の育て方」(以上、ぱる出版)、「現場で使える新人ケアマネ便利帖」(翔泳社)など多数。
  
2014.01.30
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