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厚労省推計「2030年就業者数の将来予測」から見えるもの
  厚生労働省は1月27日、2030年の就業者数の推計値を公表した。今回は、この数値について、人口構造や労働力人口などの側面を踏まえて考察してみようと思う。
● 人口減少社会がもたらす影響
  総務省の人口推計や国勢調査によれば、少子高齢化の中で、日本の人口は2008年の1億2,808万人をピークに減少傾向が続いている。平均寿命の延びと団塊世代の高齢化がさらに人口の65歳以上の占率を高めており、将来推計では2060年には人口の約40%が高齢者となる。
  最近、年金・医療・介護等の社会保障給付費の増大や労働力人口の減少による経済成長へのマイナス要因として、その構造的な人口問題を指摘するニュース・雑誌記事等がよく目につく。まさに衰退の一途を感じさせてしまうものだが、政府の日本再生戦略・新成長戦略(雇用・人材育成面)の実践による、活力ある魅力的な社会の構築(転換)を目指していきたいところである。
● 適切な経済成長と労働参加(就業率向上)の必要性
  現在の日本の人口構成の変遷について、半世紀前の「胴上げ型」から近年の「騎馬戦型」、そして「肩車型」へと表現されるのはよく知られているが、2012年8月の厚生労働省「雇用政策研究会報告書」では、年齢ではなく就業者と非就業者の関係(非就業者1人に対する就業者数)から将来を見通している。
  それによると、2010年の0.97人(就業率56.6%)から、2030年には経済成長や労働参加が適切に進まない場合(注1)は0.88人(同52.1%)へ減少してしまうが、これらが適切に進む場合(注2)では1.09人(同58.2%)に増加し、現状より大きく改善する見込みである、というものである。
  少子高齢化が一層進む中で、労働力人口(15歳以上の人口のうち「就業者」と「完全失業者」の合計)の変化にプラス寄与できる要因は各年齢層における労働力率(15歳以上の人口に占める労働力人口の割合)の引き上げであり、経済成長にとっても若者・女性・高齢者・障害者をはじめあらゆる人の就業意欲を実現していくことが重要になる。
  また、ここでは政府の雇用・人材戦略の2020年度までの目標値として、各層毎の目指す就業率等が明示されており、その達成とあわせて社会保障・税の一体改革の推進が図られていくことが、人口問題解決の鍵となっていくと思われる。
(注1) 経済成長や労働参加が適切に進まない場合
2015年までは復興需要をある程度見込みながら経済成長率を低めに想定し、2016年以降は経済成長率・物価上昇率ゼロ、かつ労働市場への参加が進まないケースで労働力率を現状で固定した場合
(注2) 経済成長や労働参加が適切に進む場合
政府の「日本再生戦略(雇用・人材育成)」を踏まえて、実質経済成長率2%推移が実現し、労働市場への参加が就業率目標と整合していく場合
● 高齢者や女性の就業率がポイント
  労働力人口は、1990年代後半から男性の非労働力化に対し女性の労働力化が進んでいる。就業を希望しながらも非労働力人口となっている無業者の年長化には留意する必要があるが、経済成長と労働参加が適切に進まない場合、就業者の大幅な減少が見込まれる。
  2014年1月に厚生労働省が公表した2030年の将来推計では、経済成長や労働参加が適切に進まない場合の就業者は、2012年推計の6,270万人から5,449万人へと821万人減少し、逆に適切に進む場合は6,103万人と減少幅は大きく圧縮されるという。ただ、この推計値をもとに、前出の就業者と非就業者の関係にあてはめて独自に計算してみたところ、2012年度の報告書の数値とほとんど変わらない結果が出た。
  今回の推計は、現政権の成長戦略が奏功し、高齢者や女性の活用促進を含め実質経済成長率が2%で推移することをより積極的に織り込んで前回報告推計値を修正しているようだが、一般に就業率が高い県ほど一人あたりの県民所得が高くなる傾向にあるため、地域格差の広がりなど新たな問題も出てくるだろう。こうした面からも、今後の成長戦略を期待されているアベノミクスに与えられた使命は大きいといえるだろう。
2014.02.10
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