>  今週のトピックス >  No.2786
高齢者施策のもう一つの柱は「住宅確保」
● 高齢者の日常的環境での事故不安が高まる
  平成25年度版高齢社会白書によれば、あらゆる事故の中で、「住宅内」で発生するケースは他世代に比べて高齢者の方が多い。さらに発生場所を絞り込むと、居室内(45.0%)がもっとも多く、ごく日常的な環境での事故不安が高まっている。例えば、居室内で転倒して骨折したり頭を打ち、動けなくなったという状況を想定した場合、高齢者の一人暮らしあるいは夫婦のみの世帯にとっては深刻な課題といえるだろう。こうした高齢者のみの世帯は、高齢者のいる世帯の過半数に達しており、今後はその比率がさらに高まることが想定される。
  住宅内の事故をいかに防ぐか、あるいは事故を起こしても早期発見・対処にいかに結びつけるかは、その後の高齢者の生活を維持するうえでは大きなポイントといえる。つまり、高齢者にあった住宅整備を推し進めることは、その後の介護や医療のあり方にも大きくかかわってくることになる。しかしながら、高齢者人口に対する高齢者向け住宅の割合は、平成17年度で0.9%と低迷してきた。国は、この数字を平成32年度までに3〜5%まで引き上げることを指標としている。
● 追いつかない実態把握、不明瞭な運営を行う有料老人ホームも
  高齢者向け住宅といえば、まず思い浮かぶのが、有料老人ホームや平成23年10月から指定制度が始まったサービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)だろう。これらについて、国土交通省は設立資金を幅広く集めるためのヘルスケアリート(リート=不動産投資信託)のしくみを取り入れるべく、ガイドラインの作成を進めている。
  だが、入居希望者から見た場合には、様々な課題が横たわる。例えば、前者の有料老人ホームの場合、前払い金の保全義務があるにもかかわらず、適切に履行していないケースが見られる。高い一時金を支払った後、ホームが破たんしてもお金が戻ってこないなどのトラブルも国民生活センターなどに報告されている。
  さらに、実態はあっても届出がなされていないために、不明瞭な運営が行われているケースもある。数年前に火災で多くの入居者が亡くなった事件でも、実態は有料老人ホームであったが届出はなされていなかった。こうしたケースを踏まえて国は「実態把握」を進めている。また、サ高住に関しても、入居者の安心・安全確保の体制が十分にとられていないケースも報告されており、国は「サ高住制度の的確な実施」についての通知を平成25年に出している。
● 団塊世代が全員75歳以上を迎える時点
  もう一つの課題は、低所得・低資産の高齢者を対象とした住宅の確保だ。こうした高齢者の場合、持ち家が老朽化しても改築する費用がなかったり、借家の場合は家賃の滞納などで退去を迫られるケースも多い。そこで、国は平成26年度予算案において「低所得高齢者等住まい・生活支援モデル事業」に対して1.2億円を計上した。
  さらに、住宅確保要配慮者に対して賃貸住宅の供給を進める法律も施行されている。そのしくみとして、地域において自治体関係者、不動産関係団体、居住支援団体等が連携する居住支援協議会の設立があげられる。ここで「高齢者が安心して住める住宅情報」を一元化し、地域包括支援センター(包括)などに情報を提供する。住宅確保が困難な高齢者の相談情報は包括などに集まることが多く、そこで円滑な支援へとつなげやすくするわけだ。
  いずれにしても、総合的な支援策はまだスタートしたばかり。高度成長期のニュータウンなどが次々と老朽化する中、いわゆる団塊世代が全員75歳以上を迎える平成37年が一つのポイントとなる。それまでに施策をいかに軌道に乗せるかが着目される。
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田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、「2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート」、「認知症ケアができる人材の育て方」(以上、ぱる出版)、「現場で使える新人ケアマネ便利帖」(翔泳社)など多数。
  
2014.03.13
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