>  今週のトピックス >  No.2802
介護保険の各種減免のしくみは機能するか
● サービス減や負担増の一方で、低所得者への保険料減免措置も
  介護保険の第1号(65歳以上)、第2号(40〜64歳)の月当り保険料がともに5000円代に突入する──厚労省の推計が新聞やテレビのニュースでも取り上げられている(2号については、事業主負担分等を含む)。ちなみに、1号保険料改定は3年に1度で次期改定は平成27年度だが、現役世代の2号保険料は毎年度の改定となる。4月からの消費増税や医療費の窓口負担のアップも含めて、中高年層の家計への重しが高まりつつある。
  現在、国会では平成27年度施行(一部例外あり)に向けた、介護保険制度をはじめとする医療・介護改革の一括法が審議されている。一般のニュースで取り上げられがちなのは、「要支援1・2の人のサービスの一部を市町村事業(地域支援事業)に移行させる」ことや、「一定以上の所得がある人の利用者負担を1割から2割に引き上げる」など、サービス減や負担増という部分が多い。これらは主要な改正項目であることは間違いないが、実は法案の中では「低所得世帯に対する保険料の減免措置」も新たに設けられている。
  介護保険制度は「被保険者からの保険料」以外に、5割は公費の投入によって成り立っている。今回の法案では、この5割とは別枠で公費を追加投入し、低所得者の保険料の軽減割合を拡大するとしている。周知のとおり、65歳以上の1号保険料は、世帯所得によって原則6段階で設定されている(市町村判断でさらに段階設定が増えるケースもあり)。
  例えば、現行では、「世帯全員が市町村民税非課税世帯」という場合、保険料の基準額に0.5〜0.75をかけることで、保険料が減免されるしくみになっている(本人の年金収入によって1〜3段階)。これを0.3〜0.7へと引き下げ、その分に公費をあてることで、低所得者に対する減免を拡大するわけだ。厚労省の試算によれば、恩恵を受けるのは65歳以上の高齢者全体の約3割にあたる。
● カギは生活困窮世帯への減免措置の周知徹底
  また、サービスを利用したときの利用料についても、現行では様々な減免措置がある。全国統一で実施されているのは、医療における高額療養費にあたる「高額介護サービス費」、施設等の居住費・食費にかかる「補足給付」などがあげられる。社会福祉法人の提供するサービスについて、低所得者を対象とした減免のしくみもある(減免分は公費より補てんされる)。加えて、市町村が一般財源を用いて独自の減免措置を行っているケースもある。
  こうした保険料・利用料の減免のしくみが出揃っていく中では、確かに「低所得高齢者の負担減」のクッションは整うことになる。だが、問題なのはしくみが複雑であったり、メニューが多すぎる中で、国民にしくみの趣旨が十分に理解されるのかという懸念だ。保険料の減免が拡充されるのはいいとしても、そのために世帯分離などが急増すれば、市町村現場での事務負担などが増幅する可能性がある。ただでさえ、次期制度改正では、市町村の事務負担は急速に拡大する。利用者負担の減免などについて、住民に対する広報などをどこまで徹底できるかかも問われることになるだろう。
  すでに介護保険を使っていれば、担当するケアマネジャーなどからの情報提供によって周知も可能だろう。生活保護世帯なら、行政のケースワーカーが情報提供の窓口となる。問題なのは、何ら制度的なアクセスに至っていない世帯である。生活困窮に対するワンストップ相談窓口などを設ける自治体も増えているが、こうした入口機能の充実が同時に必要となるだろう。様々な減免策も活用にいたらなくては意味がない。現実に即したフロー設計ができるかどうかが問われている。
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田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、「2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート」、「認知症ケアができる人材の育て方」(以上、ぱる出版)、「現場で使える新人ケアマネ便利帖」(翔泳社)など多数。
  
2014.04.10
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