>  今週のトピックス >  No.2810
4月から「がん研究10か年戦略」がスタート
● 新戦略では患者のQOLの向上、社会参加の促進を重視
  4月2日、文科省、厚労省、経産省の3省一体による「がん研究10か年戦略」が定められた。国によるがん対策については、昭和59年度の「対がん10か年総合戦略」に始まり、10年ごとに新たな戦略が示されている。その間のテーマとしては、「がんの本態解明」(昭和59年)→「がん本態解明から克服へ」(平成6年)→「がん罹患率と死亡率の激減を目指して」(平成16年)という具合に、実践的な予防や治療の体制を確立するごとにシフトしてきた。
   今回は、平成16年度の「第3次対がん10か年総合戦略」が平成25年度で最終年を迎えたことにより、新たなテーマの設定を掲げたものだ。ちなみに今回のテーマは、平成18年に制定された「がん対策基本法」および平成24年に見直された「がん対策推進基本計画」に基づいている。具体的には、@「がんによる死亡者の減少」、A「全てのがん患者とその家族の苦痛の軽減と療養生活の質の維持向上」、B「がんになっても安心して暮らせる社会の構築」を軸として、がん研究の今後のあるべき方向性と具体的な研究事項を明らかにしたものだ。
   これまでに取り上げられてきたテーマも散見されるが、単に罹患率や死亡率を低下させるだけでなく、患者自身のQOL(生活の質)の向上、および社会参加をいかに進めるかが重視されている点に着目したい。がん患者全体の5年生存率をみると、平成5〜8年では53.2%であったのが、平成15〜17年では58.6%と改善傾向にある。もちろん「劇的」というわけではないが、この間には人口の急速な高齢化によって高齢のがん患者も増えている。つまり、高齢患者による死亡率の増加を考慮すると、数字以上に生存率が高まっているというのが現場の実感であろう。
  ただし、生存率が高まるということは、継続的に治療・療養を行なっている患者の数が増えるということでもある。つまり、「がんと共に生きる」ということが大きなテーマとなり、その間の患者の生活(およびその家族の負担など)にいかに目を向けるかが施策的にも強く問われていることになる。今回の戦略テーマも、そうした視点が背景にある。
● 医療技術の開発が進む一方で、高コスト化が課題に
  では、治療に携わる医療の立場から必要なことは何か。この点について、具体的な戦略項目の中に「患者にやさしい新規医療技術開発」が掲げられている。この場合の“患者にやさしい医療技術”とは何か。例えば、身体に負担の少ない低侵襲治療を可能とする技術、治療効率を高め副作用を抑えるドラッグ・デリバリー技術(体内の目標とする患部に効率的に薬物を送り込む技術)などがあげられる。
  また、こうした技術研究と並行する形で、がん患者とその家族の健康維持増進と心理的・社会的問題に関する研究も進められる。両者がうまく噛み合えば、「がんに罹患しても社会生活を全うできる」体制が整うことになるだろう。
  ただし、様々な低侵襲治療やドラッグ・デリバリーに優れた新薬・技術が開発されたとして、スムーズな社会保険適用がなされるのかどうかといった課題もある。現在の医療費の高騰の一つに、コストの高い先進医療が増えてきた要因も指摘されている。現在、政府では「選択療養」の導入を図る動きがあるが、こうした課題も含めて国民合意の形成が求められることになる。
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田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、「2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート」、「認知症ケアができる人材の育て方」(以上、ぱる出版)、「現場で使える新人ケアマネ便利帖」(翔泳社)など多数。
  
2014.04.24
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