>  今週のトピックス >  No.2818
介護保険の行方を占う「複合型サービス」
● 認知症患者の療養ニーズに合わせて平成24年に創設
  介護保険制度改正案の国会審議に並行する形で、4月28日から社会保障審議会・介護給付費分科会がスタートした。平成27年度から施行される介護報酬やサービス基準などを定めるための審議会だ。現場の隅々に影響をおよぼすという点では、この報酬・基準設定にも注目しなければならない。
  特に、国が今後強化したいと思われるのが「複合型サービス」だ。平成24年の介護保険法改正時に誕生したサービスであり、一般の知名度はまだ高くない。誕生したばかりということもあり、平成26年3月末日までに整備された拠点数は、全国で113事業所にとどまる。この複合型サービスは、小規模多機能型居宅介護というサービスから発展したものだが、後者の拠点数が全国約4000ヶ所整備されている状況に比べると開きは大きい。
  では、この複合型サービスとはどのようなものなのか。まず原点となる小規模多機能型居宅介護に着目しよう。こちらは認知症の利用者を対象に、その状態や生活サイクルに応じて「通い」「泊まり」「訪問」という多機能サービスを適宜組み合わせていくというもの。本人の心身の変化に柔軟に対応することで、BPSD(認知症特有の行動・心理症状)の緩和に大きな効果があるとされる。こうした柔軟なサービス提供により、認知症があっても地域生活の継続を可能にするのが狙いだ。
  問題なのは、認知症が進む中で様々な療養ニーズも高まることだ。認知症の進行自体、中枢神経系にも障害をもたらすことがあり、嚥下困難などから肺炎リスクなどが高まったりする。さらに高齢化が進めば看取りニーズなども高くなる。
● 拠点の少なさと重度者の療養ケアが今後の課題
  医療・介護の上流にあたる病院機能が再編される中、亜急性期の段階で地域(在宅)に復帰するケースがますます増え、重度の療養ケアへのニーズは今後も大きな課題となってくるだろう。だが、小規模多機能型では、看護職員の配置が比較的手薄(1人以上)なため、重度者の受け入れが難しいケースもある。これに対し、複合型サービスの人員基準では、看護職員が常勤換算で2.5人以上(訪問看護との連携でも可)となっている。
  次回の報酬・基準改定で、国はこの複合型サービスの重点化に乗り出す可能性が高いと思われる。その一端が垣間見えるのが、介護給付費分科会に提出された平成24年度改正の効果検証だ。この中に複合型サービスが取り上げられているが、拠点数の少なさとともに重度の療養ケアが十分に発揮されていない現状を指摘している。一方で、サービス効果に対する調査では、「(利用者が)入院・入所せずに済むようになった」、「従来まで断っていた医療ニーズの高い利用者を登録できた」、「家族の介護負担が軽減した」という結果が目立つ。
  在宅での療養ニーズの高まりに大きな効果をもたらしている反面、普及スピードが遅い、療養の範囲がまだ狭いとなれば、重度化要件を厳しくして報酬単価を一気に上げるという政策誘導などが予想される。医療財政のひっ迫というしわ寄せから、介護保険の療養保険化が指摘されている。その将来的な介護保険サービス像の象徴として、複合型サービスへの注目度は一気に高まっていくかもしれない。
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田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、「2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート」、「認知症ケアができる人材の育て方」(以上、ぱる出版)、「現場で使える新人ケアマネ便利帖」(翔泳社)など多数。
  
2014.05.15
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