>  今週のトピックス >  No.2826
国会審議進む「医療事故調査」のための新機関
● 医療事故の原因究明・再発防止を推進
  医療法、介護保険法の改正案を一括して盛り込んだ「医療・介護総合推進法案」が、衆議院本会議にて与党多数によって可決された。今回は医療にかかる制度改正に着目してみたい。取り上げるのは、医療の安全確保の措置にかかる事項、具体的には「医療事故に係る調査の仕組み」についてである。
  患者にとって大きな不安材料となっている医療事故については、1990年代から医学会でも対応が大きな課題となっていた。特に焦点となったのは、医療事故の原因究明をいかに進めるかという点だ。医療事故の場合、ともすると医療職側の刑事責任追及が先に立ち、それが関係者による原因究明、さらには再発防止に向けた取り組みを萎縮させがちとなる。
  厚労省では2008年から、数次にわたる試案と「医療安全調査委員会設置法案大綱案」を作成・公表したが、医療関係者の懸念を払拭するには至らなかった。その後、政権交代などがあって上記の試案・大綱案は棚上げとなっていたが、2012年2月に「医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会」が設けられた。同検討部会は13回にわたって開催され、2013年5月に基本的なあり方が取りまとめられ、今回の法案へと至っている。
  今法案のポイントは大きく分けて3つ。1つ目は、医療事故が発生した際に速やかに院内調査を行なうべき要件を定めたこと。2つ目は、その際に調査の中立性・透明性・公平性・専門性の確保のために、原則として外部の医療専門家の支援を受けるとしたこと。3つ目は、上記の調査結果についての報告を行なう第三者機関を新たに設置することだ。
● 「医療事故調査・支援センター」は、遺族からの求めによる調査も可能
  3つ目に挙げた第三者機関は、「医療事故調査・支援センター」(以下、センター)と名付けられた民間機関(一般社団・財団法人)で、厚生労働大臣が指定する。センターは、院内調査の報告書の確認・検証・分析を行なうほか、医療機関からの求めに応じて、院内調査の方法等に係る助言を行なう。その際、調査の中立性を確保するべく、同センターと院内調査の支援機関が重複しないようにすることも示されている。
  注目したいのは、遺族からの求めに応じてセンターが調査に乗り出すことも可能とした点だ。遺族の場合、医療機関側の調査に不満・不安を抱いた場合、「真実を知りたい」という動機のもと、訴訟などの手段に訴えがちとなる。これが医療機関側だけでなく、遺族側の負担にもつながりやすい。センターが中立性の高い第三者機関となることで、少なくとも遺族側の「真実を知りたい」という要望の受け皿になれば、事故原因の真相究明も円滑に行われるという狙いがある。
  また、医療機関側は上記センターの調査を拒むことはできず、拒んだ場合、センターはその旨を公表したり立ち入り調査を行なうことができる。一方で、立ち入り調査などは「犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない」という点も明文化され、警察・司法からの独立性を保つことで、「責任追及よりも原因追及」の目的の確立が目指されている。
  ただし、具体的なセンター運営に関しては、法案成立後に省令で定められる。現段階では、この新機関が「原因究明→再発防止」の流れを果たせるものになるとは断言しづらい。患者・遺族の信頼を得られる機関に成長するかどうか、慎重に見守る必要がある。
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田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、「2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート」、「認知症ケアができる人材の育て方」(以上、ぱる出版)、「現場で使える新人ケアマネ便利帖」(翔泳社)など多数。
  
2014.05.29
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