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先進医療を理解するうえで押さえておきたい点
  医療保険、がん保険を販売する際、先進医療保障特約についてアドバイスすることも多いかと思います。そこで、先進医療およびその特約について一般的に見落としがちな点について整理してみましょう。
● 先進医療を受けるにはいくら必要か?
  先進医療とは、「厚生労働大臣が定める高度の医療技術を用いた療養その他の療養であって、保険給付の対象とすべきものであるか否かについて、適正な医療の効率的な提供を図る観点から評価を行うことが必要な療養」であり、具体的には「有効性及び安全性を確保する観点から、医療技術ごとに一定の施設基準を設定し、施設基準に該当する保険医療機関は届出により保険診療との併用」ができるとしています(厚労省HPの「先進医療の概要について」より)。
  保険診療適用外の最先端の治療(自由診療)を受けると、保険診療の対象となる部分も含めて医療費の全額が自己負担となりますが、大学病院や研究機関などの医療機関で開発された先進の医療技術の中で、厚労省の先進医療専門家会議で安全性と治療効果が確認されたものについては、保険診療との併用(混合診療)が認められています。つまり、先進医療に係る費用は全額自己負担ですが、先進医療に係る費用以外の、通常の治療と共通する部分(診察・検査・投薬・入院料等)の費用は、一般の保険診療と同様に扱われます。
  押さえておきたいポイントの1つめは、保険診療の適用外である「先進医療に係る費用」には診療報酬が定められていないので、同じ治療法であっても病院によって金額が異なるという点です。
  先端的な治療・検査法ですので、先進医療には高額なものが多いようです。先進医療のなかでとくに治療・検査の件数が多いものを下表にまとめました。がんの放射線治療法として有名な重粒子線治療、陽子線治療の技術料は、前者が約300万円、後者が約260万円かかっています。
  ちなみに、平成22年11月に先進医療の適用を受けた「重症低血糖発作を伴うインスリン依存性糖尿病に対する心停止ドナーからの膵島移植 重症低血糖発作を伴うインスリン依存性糖尿病」は、医療費が約1,300万円かかるそうです(福島医大における典型例。第20回高度医療評価会議資料より)。
● 先進医療は見直される
  ポイントの2つめは、先進医療の治療内容や適用範囲は適宜見直されている点です。そのため、数年前の資料には先進医療の適用を受けていた治療法が、保険診療に移行している、あるいは承認取消等の事由によって先進医療ではなくなっていることがあるので注意が必要です。例えば下表の「光トポグラフィー検査を用いたうつ症状の鑑別診断補助」は、この4月から健康保険の適用となっていますので、現在では先進医療保障特約の対象外です。
  先進医療会議が今年1月に中央社会保険医療協議会に報告した「既存の先進医療に関する保険導入等について」によると、上記の光トポグラフィー検査は「優先的に保険導入が適切であると評価」されていますが、下表の残りの4技術については「保険導入の適否を評価するために必要な有効性、効率性等が十分に示されていないことから、引き続き先進医療で実施されることが適当」としています。
  ポイントの3つめは、先進医療保障特約を考えた場合、治療法が先進医療と同じ名称であっても、適応症、受診する医療機関ともに先進医療の指定に該当しないと先進医療保障特約の給付金を受け取ることができない点です。指定機関は変更されることがあります。先進医療に該当するか否かは、治療を受ける前に実施機関に確認することが大事です。
実施件数が多い先進医療技術の概要(平成25年6月末現在)
技術名 年間実施
件数
1件あたり
の平均額
適応症 技術の概要
前眼部三次元画像解析 5,337件 約0.3万円 緑内障、角膜ジストロフィー、角膜白斑、角膜変性、角膜不正乱視、水疱性角膜症、円錐角膜、水晶体疾患又は角膜移植術後である者 角膜、隅角、虹彩などの断層面の観察や立体構造の数値的解析ができる検査方法。
多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術 5,248件 約51万円 白内障 単焦点眼内レンズの焦点は遠方又は近方のひとつであるのに対し、多焦点眼内レンズはその多焦点機構により遠方及び近方の視力回復が可能となり、眼鏡依存度が軽減される。術式は小切開創から行う超音波水晶体乳化吸引術で行う。
陽子線治療 2,170件 約259万円 限局性固形がん 放射線の一種である粒子線(陽子線)を病巣に照射することにより悪性腫瘍を治療する。
光トポグラフィー検査を用いたうつ症状の鑑別診断補助 1,959件 約1万円 うつ症状を有する患者※1 脳の前頭葉や側頭葉の血流について、光装置を用いて頭の表面から計測することで、脳活動状態をグラフ化する。※1
重粒子線治療 1,286件 約304万円 限局性固形がん 重粒子線(炭素イオン線)を体外から病巣に対して照射する治療法。
(技術名および年間実施件数、1件あたりの平均額は「平成25年6月30日時点で実施されていた先進医療の実績報告について」より。適応症および技術の概要は「先進医療の各技術の概要」より。※1:光トポグラフィー検査を用いたうつ症状の鑑別診断補助については、平成26年度から健康保険適用に移行したため、「平成26年度診療報酬改定について」の「個別改定項目について」を参照。いずれも厚労省ホームページ。なお、1件あたりの平均額は先進医療総額を年間実施件数で除して四捨五入した。)
  
飯田 道子(いいだ・みちこ)
海外生活ジャーナリスト/ファイナンシャル・プランナー(CFP)
  金融機関勤務を経て96年FP資格を取得。各種相談業務やセミナー講師、執筆活動などをおこなっている。主な著書には、「宅建資格を取る前に読む本」(総合資格)、「介護経験FPが語る介護のマネー&アドバイスの本」(近代セールス社)などがある。
  海外への移住や金融、社会福祉制度の取材も行う。得意なエリアは、カナダ、韓国など。
  
2014.06.05
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