>  今週のトピックス >  No.2834
認知症行方不明者1万人時代への対応とは
● 全体の1割弱にのぼる、認知症高齢者の徘徊による行方不明
  厚生労働省の統計によれば、日常生活自立度U以上(日常生活に支障をきたすような症状・行動や意思疎通の困難さが見られる状態。ただしUであれば誰かが注意すれば自立できる)の認知症高齢者は約280万人で、高齢者の7人に1人という割合になる。ただし、これは介護保険制度を利用している人に限られており、潜在的な数を含めれば300万人を超えるといわれる。また、昨今問題となっているのは、MCI(軽度認知障害)という、認知症ではないがその入口に差し掛かっている状態の人だ。その数だけで約380万人に達するとされている。
  このように、すべての国民にとって認知症が身近な課題となる中、「認知症高齢者の行方不明」のケースが連日のようにメディアで報道されている。発端の一つとなったのが警察庁の統計である。警察庁では、毎年「行方不明者の状況」についての統計を発表しているが、原因・動機別のデータの中に、平成24年分の調査から「認知症」という項目が加わっている。その数は、初年度の平成24年で9,607人(NHKの調査によると、このうち死亡が確認されたのは351人)、今年6月に発表された平成25年分では10,322人と1万人を超えている。これは行方不明者全体の12.3%にものぼっている。
  この数字は、現在「医療・介護総合確保法」の審議を行なっている国会でも取り上げられた。そこで指摘されたのは、軽度の人であっても徘徊による行方不明リスクは決して低くないということだ。もっと言えば、前述したMCIの人でも、周囲が気づかないまま認知症へと進行した場合、「突然外出先から帰れなくなる」というケースも起こり得る。高齢者の場合、何らかの内部疾患があって定期的な服薬などが欠かせないことも多い。夏場などは熱中症のリスクも高まる。そうした中で長時間「徘徊する」となれば、命にかかわるケースもさらに増えることになるだろう。
● 身元確認のための行政と民間の連携強化が必須
  こうした「認知症高齢者の行方不明問題」を受けて、警察庁は全国都道府県警を通じて身元確認照会システムの活用などを進めるという通達を出した。さらに、認知症行方不明者の早期発見を担う「徘徊SOSネットワーク」などを手がける自治体との連携強化も図るとしている。だが、これまでも「徘徊SOSネットワーク」と地元警察の連携は図られてきた例はあり、むしろ行政間で個人情報をどのように扱うかがカギとなってくるだろう。
  ただし、それ以前の問題として、上記の「徘徊SOSネットワーク」自体が整備されていない自治体も多い。仮に形はあっても、早期発見のための事業者協力(タクシー、公共交通機関のほか、宅配便、新聞・郵便配達など)の呼びかけが進んでいなかったり、住民への周知が未徹底であるというケースも見られる。個人情報の問題から、認知症による徘徊の可能性がある対象者情報は原則として「登録制」となっている所が多いが、顔写真などを登録しても「徘徊は夜間にも多い」という現状で、早期発見が難しくなることもある。
  もちろん、認知症の早期発見と、徘徊につながりやすいBPSD(認知症の行動・心理症状)の緩和に向けた支援策などもセットで充実させていくことも必要だ。この行方不明問題を国民的な課題として、公・民のあらゆる機関が横断的に取り組んでいく体制づくりが求められている。
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田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、「2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート」、「認知症ケアができる人材の育て方」(以上、ぱる出版)、「現場で使える新人ケアマネ便利帖」(翔泳社)など多数。
  
2014.06.12
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