>  今週のトピックス >  No.2840
与党税制協議会、消費税の軽減税率の素案を公表
● 軽減税率の対象分野は8パターンを提示
  自民・公明の与党税制協議会は6月5日、消費税を10%に引き上げることに伴い、食料品などの生活必需品の消費税率を低くする軽減税率制度の素案を公表した。素案は、軽減税率の対象分野について、「まずは飲食料品分野を想定して検討する」として、8種類のパターンを提示し、また課税事業者に新たに発生する区分経理事務については4案を併記した。同協議会は、「予め案を絞り込むのではなく、広く国民の意見を聞きながら、検討していく」との考えを示している。
  軽減税率の対象分野については、生活必需品にかかる消費税負担を軽減し、かつ、購入頻度の高さによる痛税感を緩和するとの観点から絞り込むべきとの考え方のもと、まずは飲食料品分野とすることを想定して検討。その中で、各国で行われている線引き例を当てはめて、飲食料品の全てを対象とするものから、精米だけに絞ったものまで8案を示した。減収額は、1%当たり200億円(精米のみ)〜6,600億円(全ての飲食料品)と大きな幅がある。
  同協議会は、「当然、軽減対象範囲が広ければ広いほど、軽減分を埋め合わせるための財源の規模は大きくなり、その分、社会保障財源に影響を与える」と指摘。軽減対象範囲と財源両方を勘案した議論や、実務上、明確な線引きが不可欠である点についても事業者等からの意見を期待している。与党内では、公明党が当初主張していた外食と酒を除く案よりも、さらに菓子類や飲料、加工食品を除いた「生鮮食品」を推す声があるという。
● 区分経理の仕組みは4案に整理
  また、軽減税率制度を導入する場合、適正な税額計算のためには区分経理のための仕組みが必要となるが、事業者の事務負担や適正な請求書等が発行されることの担保、免税事業者への影響といった課題について、素案では、以下の4案に整理した。
  (A案) 区分経理に対応した請求書等保存方式
  (B案) A案に売り手の請求書交付義務等を追加した方式
  (C案) 事業者番号及び請求書番号を付さない税額別記請求書方式
  (D案) EU型インボイス方式
  付加価値税(消費税)を導入しているEUをはじめとする大部分の国では、EU型インボイス方式が採用されている。現行の請求書等保存方式においては、税率が上がるにつれ、いわゆる益税が増加するおそれがあるのに対し、納税額の計算等は請求書等の税額を用いて行うEU型インボイス方式は、「消費者が負担した消費税が納税義務者たる事業者を通じて適正に納税される」と評価されており、有力視されている。
  ただし、インボイス方式では、事業者間取引を行っている免税事業者は、課税選択をしなければ、追加の事務負担は発生しないかわりに、取引を避けられる可能性がある。他方、納税額の計算等は帳簿に基づき行う場合(A案、B案)は、このような免税事業者に係る問題はないものの、税率引上げや複数税率制度によりいわゆる益税が拡大する可能性は高く、免税事業者にも追加事務負担が発生する。
  同協議会は、「ここに示した軽減税率導入への課題と論点について、広く国民各層において活発な議論がなされることを期待」している。
  今後、年末にまとめる与党税制改正大綱に向け、対象品目を飲食料品以外に広めるか、また最大の課題である軽減税率の導入時期など、制度の詳細を検討していく。導入時期は、平成26年度の与党税制改正大綱に「消費税率10%時に導入」と明記したが、10%への引上げと同時なのか、その後なのかはまだ決まっていない。
参考 自民党:消費税の軽減税率に関する検討について
https://www.jimin.jp/news/policy/pdf/pdf179_1.pdf
  
浅野 宗玄(あさの・むねはる)
株式会社タックス・コム代表取締役
税金ジャーナリスト
1948年生まれ。税務・経営関連専門誌の編集を経て、2000年に株式会社タックス・コムを設立。同社代表、ジャーナリストとしても週刊誌等に執筆。著書に『住基ネットとプライバシー問題』(中央経済社)など。
http://www.taxcom.co.jp/
○タックス・コム企画・編集の新刊書籍『生命保険法人契約を考える』
http://www.taxcom.co.jp/seimeihoujin/index.html
  
2014.06.23
前のページにもどる
ページトップへ