>  今週のトピックス >  No.2842
高齢者の住まい確保と介護サービスの整合性
● 地域包括ケアシステムを目指す「地域医療・介護総合確保推進法」成立
  平成26年6月18日、参議院本会議で、平成27年度からの介護保険制度の改正を含む「地域医療・介護総合確保推進法」が与党の賛成多数で可決・成立した。すでに社会保障審議会・介護給付費分科会が開かれているが、具体的な介護報酬・運営基準などに向けた議論が加速することになる。今回注目したいのは、分科会における個々のサービスの本格的な議論に入る前に、「高齢者の住まい」が一大テーマとして掲げられたことだ。「住まい」とうたってはいるが、実質的には「介護施設に代わる受け皿」のニーズ拡大が背景にあることは間違いない。
  病院はもとより介護老人保健施設は在宅復帰機能が強化され、特養ホームは原則要介護3以上という入所制限が進もうとしている。こうした流れに、同居家族の高齢化や独居世帯の増加といった環境要因が加わってくると、「住まいに介護サービスがセットされている」という機能の存在が重みをおびてくる。問題なのは、供給以上に需要が高まることにより、市場原理の常として入居者側の立場がどうしても弱くなりがちになることだ。
  いわゆる介護サービスがセット化された住まいといえば、少し前までは有料老人ホームがもっとも大きな存在だった。国は利用者保護の強化として、前払金の保全措置や入居者の処遇改善・保護を進めるべく、改善命令などを強化してきた。また、年金詐取などの貧困ビジネスにつながりかねない無届け老人ホームなどの実態把握にも力を入れている。
  そして、平成23年10月からは、サービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)の登録制度もスタートした。これにより、安価で良質な賃貸住宅の確保とともに、安否確認や見守りサービスをセットにすることで入居者の安心・安全を高めるというビジョンがある。
● サ高住の“利用者囲い込み・サービス誘導”防止策が今後の課題に
  だが、このサ高住についても、「入居者側の弱い立場」につけ込むような問題が起こっている。このような状況をふまえ、国は平成25年の後半から地方公共団体との間で「高齢者向け住まいに関する意見交換会」を開催した。その中で出てきた自治体側の報告に以下のような事例がある。
  「サ高住の母体法人が運営する介護サービス事業の利用を、入居者に対して強要する」
  「併設するサービス拠点を利用すると、サ高住の家賃を割引する」
  いわば一種の囲い込みが行われているケースである。確かに、要介護者の場合、サービスが一体化した施設的利用を求めている部分はあるものの、だからといって介護保険法の理念である「利用者の選択権」が侵されていいというわけではない。
  さらに問題なのは、単なる囲い込みにとどまらず、「より多くの介護保険サービスを使わせよう」というケースもあることだ。たとえば、「契約時に区分支給限度額(要介護度ごとに決められている保険給付の限度額)ぎりぎりまでのサービス利用を条件としている」というケース。利用者がどのような介護保険サービスを使うかはケアプランによって計画が定められるが、ケアプランを立てるケアマネジャーがサ高住と同一法人に所属している場合、本人の意に沿わないサービス利用を誘導する役割を担っているという可能性も水面下で広がっているわけだ。
  こうした利用者の意に沿わない囲い込みやサービス誘導をどう防いでいくか。入居者の権利を保護するための監査体制などについて、第三者機関の設置などを含めた議論が望まれる。
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田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、『2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート』『認知症ケアができる人材の育て方』(以上、ぱる出版)、『現場で使える新人ケアマネ便利帖』(翔泳社)など多数。
  
2014.06.26
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