>  今週のトピックス >  No.2854
地域における介護予防は機能するか?
● 国から市町村へ予防給付の一部が移行、サービス低下を懸念
  今国会において「地域医療・介護総合確保推進法」が可決・成立し、介護保険分野でも様々な改正が実施される。本トピックスでも何度かふれたように、大きな改正の一つが、要支援1・2の人への予防給付の一部が市町村の手がける「新しい総合事業」に移行することだ。
  これに対し、国会審議では野党側から要支援者の要介護度悪化という懸念が噴出した。政府側は「しっかりとしたケアマネジメントに基づいてやっていく」「地域の実情に応じて多様な主体が事業にかかわることで、予防効果は見込める」という旨で反論している。実際はどうなのか。全国一律の給付が一部外され、地域独自の事業に移るとなれば、それぞれの地域ごとの取り組みがカギとなる。その予防効果を推し量る材料はあるのかどうか。
  そんな中、今年5月に厚労省が「地域の実情に応じた効果的・効率的な介護予防の取組事例」を公表した。取り上げられたのは、全国12の市町村(および広域連合)の事例である。たとえば、一般住民を対象に行政が介護予防にたずさわるサポーター(ボランティア)を養成し、そのサポーターがより身近な圏域の高齢者を対象に介護予防体操などの教室を催すという具合だ。こうした事例のほとんどが住民の主体的な活動をベースとしており、サポーターのような形でその取り組みに参加すること自体が社会参加意欲を持続させ、住民の介護予防に結びつくという効果も狙っている。
● 取組み好事例では主体的な住民参加がカギ
  事例を見て驚くことは、脳血管疾患などの後遺症が残る人や軽度の認知症の人も参加しているケースが紹介されていることだ。あくまで「そういう参加者もいる」という事例表記になっているので、同時に介護保険給付を受けているか否かという詳細まではわからない。体操などを行なう際、転倒リスクなどがある人については、「介護保険申請を進めている」という事例もある。その一方で、介護保険による通所サービスでは満足できず、住民主体の予防活動の方に参加しているという例があったりもする。今改正法の施行をスムーズに進めたい政府としては、まさに意にかなった事例ということになるだろう。
  だが、どの事例を見ても一朝一夕で活動が定着したというわけではない。たとえば、住民自身が活動の普及を担うとしても、効果的・効率的な予防の手法をどう開発するかとなれば、最初は行政の保健師、プロのリハビリ職、外部企業の健康運動指導士などからの指導が必要になる。その人材や材料の確保がまず必要だ。そのうえで難しいのは、そのまま行政側の過剰な押し付けが生じると、住民の主体的な活動意欲を削いでしまうという点だ。どこかで行政が一歩引き、住民を信じて任せるという段階が必要であり、そのタイミングを見計らうまでに時間を要したりする。
  加えて今改正法の施行を想定した場合、要支援という軽度であっても、状態像は多様であるという点だ。たとえば、軽度の認知症であっても環境変化などによって行動・心理症状が悪化することもある(このあたりは、国会の参考人招致で、現場の専門職からも指摘が上がっている)。こうした対応を住民間で担うとなれば、さらに手間と時間を要するだろう。予防給付の移行は平成29年度までに完全実施が予定されているが、それまでに各市町村がいかに覚悟と忍耐を持って取り組めるか。これが結局はカギとなりそうだ。
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田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、『2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート』『認知症ケアができる人材の育て方』(以上、ぱる出版)、『現場で使える新人ケアマネ便利帖』(翔泳社)など多数。
  
2014.07.17
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