>  今週のトピックス >  No.2862
介護サービスの包括化と区分支給限度基準額
● 区分支給限度基準額、見直しを検討
  平成27年度の介護報酬および運営基準等の改定に向けて、厚労省の介護給付費分科会の議論が続いている。6月25日に開催された同会では、区分支給限度基準額にかかる議論が行われた。区分支給限度基準額とは、要介護度別に設定された在宅サービスにかかる給付の限度額のことで、これをオーバーした部分についてはサービスにかかる費用はすべて利用者負担となる。利用者としては、ケアマネジャーなどと相談しつつ、この限度基準額をにらみながらサービス利用を図っていかざるをえない。
  分科会議論の初期段階で、優先課題として区分支給限度基準額が取り上げられたということは、今後最重要課題の一つとなることを意味している。その背景となっているのが、在宅介護における要介護者の重度化が進んでいることだ。もちろん、在宅高齢者の年齢層が高まり、慢性疾患等の療養ニーズが高まっていることも要因としてある。加えて、昨今の社会保障制度改革の流れの中で、川の上流にあたる急性期から回復期にいたる病床機能の再編を無視することはできない。つまり、できる限り早期に在宅復帰を進めることによって病床機能の効率化を図り、膨張する社会保障財政の悪化を防ごうという意図がある。それゆえに、在宅における介護保険の機能は重度療養ニーズへと重点化されることになる。
  そこで問題になってくるのが、重度者つまり要介護度の高い人のサービス利用のあり方だ。分科会で提示された資料によれば、受給者1人あたりの平均サービス費用額が支給限度基準額に占める割合を見ると、中重度にあたる要介護3以上の人ほど年々割合が高くなっている。また、利用者に占める支給限度基準額を超えた人の割合も、平成24年頃から要介護4・5で5%を超えている。今後、在宅における重度療養のニーズがさらに高まれば、区分支給限度基準額をにらみながらのサービス調整も限界に達してくることが想定される。
● 新サービス投入で基準額の上昇を抑制か?
  しかしながら、介護保険財政のひっ迫と介護保険料の増大を視野に入れたとき、国としては野放図に区分支給限度基準額を上げていくのは難しい。そこで注目したいのが、在宅における重度療養ニーズの切り札として国が投入したいくつかのサービスだ。具体的には、平成24年度改正で誕生した定期巡回・随時対応型訪問介護看護、そして認知症の人の療養ニーズの高まりに対応した複合型サービスがあげられる。いずれもサービス提供量にかかわらず費用は包括払いであり、利用者としては比較的わかりやすい料金体系となっている。その一方で、いずれも国が想定するほどサービス普及が進んでいるとは言い難い。
  原因はいくつか考えられるが、包括払いの中で参入をうながすべく報酬はやや高めに設定されている。それゆえに包括的なこれらのサービスを使ってしまうと、他のサービスを組み合わせた際(たとえば定期巡回・随時対応型を使いつつ通所や福祉用具貸与を利用する場合など)、区分支給限度基準額をオーバーしてしまう可能性が高まる。これがサービス利用を躊躇させている一因ではないかという指摘だ。そこで国が目論むのが、これらの新サービスを使った場合のみ区分支給限度基準額を別立てにするという方向性だ。まだ議論はスタートしたばかりだが、国が面子をかけた新サービスゆえに、その普及に向けた「特別扱い」が浮上してくる可能性が高い。今改定の目玉の一つとなりそうだ。
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田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、『2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート』『認知症ケアができる人材の育て方』(以上、ぱる出版)、『現場で使える新人ケアマネ便利帖』(翔泳社)など多数。
  
2014.07.31
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