>  今週のトピックス >  No.2870
厚労省、介護予防手帳(仮称)の普及に本腰
● 母子健康手帳を下敷きに生まれた「介護予防手帳(仮称)」
  介護保険財政がひっ迫する中、いかにして「要介護状態にならない」ようにするか、つまり介護予防のあり方がますます問われている。そうした中、厚労省は、介護予防に向けて高齢者一人ひとりのセルフマネジメントを強化するツールとして「介護予防手帳(仮称)」の普及に力を入れようとしている。
  この介護予防手帳は、今般の制度改正で再編成された地域支援事業枠での介護予防事業を受ける人を対象に交付するもの。その他、希望する高齢者への交付も想定されている。ここで言う介護予防事業とは、これまでの「要介護認定は非該当だが今後要介護になるリスクが高い人」に加え、要支援1・2と判定された人についても、予防給付だった訪問介護・通所介護からの移行によって適用される。
  介護予防事業の予防マネジメントを手がけるのは地域包括支援センター(以下、包括)だが、この包括担当者による対象者本人へのアセスメント情報や到達すべき長期・短期目標(自分で「ここまでできるようにする」など)の設定などが手帳に記される。これを参照することにより、サービス提供者側の情報共有の円滑化を図るだけでなく、本人もそれを見ながら「自分でここまで頑張ろう」というセルフケアを進めることにもつながる。
  介護予防を健康状態の維持・向上という視点でとらえた場合、一つの手帳でその進ちょくが確認できるという点で、母子健康手帳の概念を応用したものといえる。今年3月の地域包括ケア研究会でも、セルフマネジメントツールとして活用されてきた母子健康手帳の概念を他世代に適用する旨が提案されている。
  実は、この介護予防手帳については、すでに一部の自治体で、従来の地域支援事業の一環として導入されているケースがある。たとえば、A4版の二穴ファイルを標準としたもので、先のアセスメント情報や目標設定がなされた計画書などのほか、医療機関による診療情報などもファイリングすることで一元的に管理できるというしくみになっている。ここに、いざというときの相談窓口のリストや介護予防にかかる啓発資料などを加えることにより、仮に何らかのサービスを受けなくても(たとえば状態が良くなって、サービスを「卒業」した場合でも)、継続的に自分自身で取り組みを進めていく指針となる。
● 手帳の役割は、本人と介護専門職との橋渡し
  ただし、妊娠から出産というゴールラインが比較的はっきりしている母子保健と異なり、高齢者による介護予防は「いつまで続ければいいか」という先行きが見えにくい中での取り組みとなりやすい。そのため、本人の介護予防に対するモチベーションの持続を手帳というツールだけで図っていくのはやや無理がある。特に高齢者の場合、ちょっとした疾患により「できないこと」が増えたり、老人性うつなど気分的に落ち込むリスクもある。
  その点を考えた場合、やはり包括職員をはじめとする専門職などが随時かかわる中で、対面によるケアなどは欠かすことができない。介護予防手帳は、本人と専門職などとのコミュニケーションを円滑化するツールの一つという具合にとらえた方がベターだろう。国は今年度中に手帳の標準例を示すとしているが、こうしたツールだけでセルフマネジメントが飛躍的に進むほど、介護予防は簡単な課題でないことを肝に銘じるべきだろう。
田中元さんの新刊が好評発売中です!
『介護の事故・トラブルを防ぐ70のポイント』
価格:1,700円+税
発行:自由国民社
詳しくは、アマゾンのサイトへ
介護現場に潜むリスクを見逃さない!
転倒、転落、誤嚥といった介護施設・サービス現場で日頃起こりがちな事故から感染症、食中毒の集団発症、送迎中の交通事故、火災、介護職員による虐待、利用者とのトラブルまで、事故別に具体的な予防法と事後の対処法
を考察。巻末資料では介護施設・事業者向けの「損害賠償保険」なども紹介しています。
  
田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、『2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート』『認知症ケアができる人材の育て方』(以上、ぱる出版)、『現場で使える新人ケアマネ便利帖』(翔泳社)など多数。
  
2014.08.14
前のページにもどる
ページトップへ