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厚労省、身元不明の認知症高齢者の特設サイトを開設
● 認知高齢者の行方不明増加に行政が新たな対策
  今年6月に公表された警察庁の統計によると、去年1年間で認知症による「徘徊」等によって行方不明となった人は、1万人に上ることが明らかとなった。この公表を受け、国会やメディアでもさかんに取り上げられるようになり、大きな社会問題となりつつある。そうした中、行方不明となった認知症高齢者が何年もたってから「遠隔地の施設などで生活していたこと」が明らかになるといった状況も見られる。
  認知症高齢者の場合、歩行能力などの身体機能はしっかりしているという人も多い。また、公共交通網が発達している現代、いったん「遠出」をしてしまうと、都道府県の枠を越えて移動するケースもある。そこで問題となるのは、「発見された行方不明者」についての情報が、自治体間で共有されにくいこと。また、個人情報の取り扱いに関する条例規定の違いから、情報発信自体のあり方について自治体ごとに温度差があることだ。
  そこで、厚労省では都道府県圏域を越えた捜索活動に資することを目的として、ホームページ上に特設サイトを設置した(アドレスは本記事の下を参照)。具体的には、地方自治体がホームページ上で身元不明の認知症高齢者等に関する情報公開を行っている場合、「行方不明者の親族等」がすぐにアクセスできるようリンクの一覧をまとめて掲載したというものだ。
  リンク先はまだ3県にとどまっており、情報提供の様式も統一されていない(身元特定に有効な顔写真の掲載も有無が分かれている)ので、情報の質・量ともにまだまだという感はある(平成26年8月20日現在)。だが、少しでも手がかりを見つけたいという親族の思いからすれば、大きな一歩と言えるだろう。また、リンク一覧が公開されることにより、情報公開の体制が整っていない自治体に対して方策をうながす力にもなってくる。
● 垣根を越えた現場での情報共有と行政との連携がカギに
  今後、情報提供の様式を進化させていくことも想定したうえで、問われてくるのは、やはり行政・警察・医療・介護といった多機関における連携の質だろう。たとえば、顔写真の掲載を行うか否かという議論が最後までもつれる可能性があることを考えた場合、文字による情報の精度をどこまで高めるかが課題となってくる。現状でも「発見された経緯」や「本人の訴え(真偽は別として名前や住まいなどについて語っていること)」といった情報は掲載されている。だが、捜索する側としては、日常における生活や既往歴などのちょっとしたことも身元特定のヒントになりやすい。こうした情報は、医療や介護の現場におけるアセスメントの質やそれを多機関で共有できるノウハウが不可欠となってくる。
  その点を考えた場合、個人情報の取り扱いに関する条例の見直しに始まり、多機関が日常的に「顔を合わせて情報のすり合わせを行う」という風土を築けるかがポイントとなる。たとえば、警察が行方不明者を保護し、介護施設や救護施設での生活が始まった場合、そこでの療養や生活など現場の様子について、行政が継続的に把握する機会があるかどうか。「現場でのちょっとした気づき」が貴重な情報になることを考えれば、多機関連携を常にコーディネートする役割の存在も重要になる。
  認知症高齢者が300万人を大きく超えるという時代において、地域ぐるみの堅実な連携こそが、こうした新設サイトに実効性を持たせるうえでは大きなカギとなるだろう。
参照 厚生労働省:身元不明の認知症高齢者等に関する特設サイト
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田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、『2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート』『認知症ケアができる人材の育て方』(以上、ぱる出版)、『現場で使える新人ケアマネ便利帖』(翔泳社)など多数。
  
2014.08.28
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