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平成25年度の医療にかかる動向を見る
● 過去最高を更新した医療費の要因とは?
  平成25年度の医療動向を知るデータが、厚労省より2つ公表された。1つは「医療費の動向」(※1)、もう1つは患者数や入院日数などを示した「病院報告」(※2)だ。両データをすり合わせることで、ここ数年の医療現場がどのように変わりつつあるのかを掘り下げたい。
  まず医療費動向だが、平成25年度の医療費は39.3兆円で過去最高を更新した。対前年比で2.2%の伸びは平成21〜23年度の3%台に比べるとやや抑えられているが、平成24年度の1.7%(これは、同年度の診療報酬改定率が0.004%とやや抑えられたことも影響していると思われる)と比較した場合、再び上昇傾向にあることがわかる。
  一方、受診延日数の推移を見ると、平成23年度から0.1%減→0.9%減→0.8%減と一貫して減少傾向にある。また、「病院報告」を見ると、1日平均の外来患者数は対前年比で0.6%減、病床利用率は0.5%減、平均在院日数も0.6日減(療養病床に限って見ると3.5日減)となっている。受診者数も、病床利用率も、入院日数も軒並み減っていることになる。
  にもかかわらず、医療費が過去最高を記録したということは、1回の受診および入院に際しての医療費が上昇傾向にあることを意味する。前回の診療報酬の改定は平成24年度であったことを考えれば、報酬体系の影響というよりは、@患者の重篤化が進み、Aそれに合わせた医療機関側の報酬要件の整備が進んできたという仮説が浮かぶ。もちろん、背景にあるのは高齢患者の増加があると見ていいだろう。実際、年齢別の医療費の伸びでは、75歳未満が1.3%なのに対し、75歳以上が3.7%となっている(※1)
  だが、もう1つ考えなければならない要因もある。果たして患者の重篤化は、高齢化だけが理由なのかという点だ。たとえば、在院日数(特に療養病床)が低下傾向にある中で、在宅復帰に向けた十分なリハビリや在宅復帰での療養環境の整備が間に合っているのだろうか。在宅環境が整わない中で、とりあえず退院→転院という流れも考えられるが、そうした場合の病院間の連携がうまくいかなければ、転院が患者の心身の負担になり重篤化が進んでしまうこともある。
● 在宅療養と病院の連携がうまくいかず重篤化するケースも
  在宅療養の現場を取材する中で、病院側と在宅医療(および介護)の連携がうまくいかず、著しい筋力低下によって寝たきりとなって褥瘡じょくそう(床ずれ)リスクが高まるケースや、栄養状態の悪化によって合併症リスクが高まっていくケースを見ることがある。また、座位も保てない状態で在宅復帰をした結果、通院環境がうまく整わないケースもある(通院介助にかかるサービスも高度な技能が求められるので、社会資源が限られてくる)。訪問診療などが十分整っていない地域では、さまざまな重篤化リスクを抱え込むことになるだろう。
  病院側の人員確保を見ると、PT(理学療法士)・OT(作業療法士)や在宅復帰支援に求められる社会福祉士などの採用は増えている。「スムーズな在宅復帰を目指す」という意欲は見られるのだが、その機能が在宅復帰の現実に追いついていないのではないか。もっと言えば、在宅側との地域連携がうまくいっていないのではという考えも頭をめぐる。平成26年度の診療報酬改定では、在宅復帰をうながす仕掛けがさらに厚くされた。その効果が果たして出てくるのかどうか。来年度のデータに注目したい。
(※1)厚生労働省HP:「平成25年度 医療費の動向〜概算医療費の年度集計結果〜」
(※2)厚生労働省HP:「平成25年(2013)医療施設(動態)調査・病院報告の概況」
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田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、『2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート』『認知症ケアができる人材の育て方』(以上、ぱる出版)、『現場で使える新人ケアマネ便利帖』(翔泳社)など多数。
  
2014.09.11
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