>  今週のトピックス >  No.2892
年金の収支は黒字でも、積立金の取り崩しは止まらず
● 厚生年金、国民年金ともに決算上は順調に推移
  厚生労働省は8月に、「厚生年金・国民年金の平成25 年度収支決算の概要」を発表した。決算後の積立金残高(時価ベース)を見ると、会社員などが加入する厚生年金は123兆6,139億円で5兆7,184億円の黒字。自営業者らが加入する国民年金は8兆4,492億円で、こちらも2,884億円の黒字だった。厚生年金は3年連続、国民年金は5年連続の黒字となっている。
  厚生年金は、保険料率の引き上げが影響して保険料収入が約9,000億円の増加。国内市場の株高や円安の進行によって年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用が好調で、同法人からの利益剰余金が増加している。歳出では、1人当たりの給付費が減少したものの、基礎年金拠出金への繰り入れが増えた。
  一方、国民年金の歳入は、前年度より2,458億円減少。GPIFからの納付金(運用益)は約1,400億円増えたが、国民年金給付費が減少したことで、基礎年金勘定からの受入(基礎年金交付金)が減少したことなどが影響した。
● 株高で運用益が拡大するも、先行き不安
  GPIFの収益状況を見ると、国内株式と外国株式が収益に大きく寄与している。直近のポートフォリオでは、国内株式は約17%、外国株式は約15%で、国債中心の運用(約53%)となっているが、株高が牽引するかたちで、平成25年度は10兆2,207億円の運用益を上げた。年間収益額の10兆円超えは2年連続だ。
  この運用益だけを見ると、年金の将来の見通しは明るいようだが、GPIFが自主運用をはじめた平成13年度以降、赤字の年度は5回もある。そして直近2年間の運用益のみが目立つ。ちなみに平成13年度から25年度までの累積運用益は35兆4,415億円だが、運用益が急増する以前の平成23年度末には約14兆円だった。そうしたことから株価の先行き次第では大きく縮小することも考えておかなければならない。
  厚生年金、国民年金ともに決算上は2年連続の黒字となったが、実際の台所事情はまだまだ「火の車」と言ってよい。積立金からの取り崩しを除いた収支だと、厚生年金は1兆8,749億円、国民年金は2,005億円の赤字となることから、今後も年金財政の動向については予断を許さない。
  
安藤 啓一 (あんどう・けいいち)
福祉ジャーナリスト。
千葉県出身。大学卒業後、新聞や雑誌記者を経験した後、介護福祉誌の編集長を経てフリーに。パラリンピックや障がい者支援、高齢者介護、医療経営、子育てなどの分野を中心に取材活動をしている。医療、介護と縦割りになりがちな情報を、当事者の目線にこだわり、地域発想、現場重視で「横串」編集することを心がける。鳥取県の「介護ガイドAi」(鳥広マガジン)は、編集を担当。介護テキスト、医療経営誌、介護専門誌などで執筆している。また3人娘の父親として、子育て支援活動にも取り組む。
  
  
2014.09.22
前のページにもどる
ページトップへ