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要介護認定を受ける権利に「壁」ができる!?
● 予防訪問介護・通所介護を事業化することで単価設定が抑えられる?
  今般の介護保険法改正により、平成27年度から段階的に「要支援1・2」と判定された人へのサービスが変わってくる。簡単に言えば、それまでの全国一律の予防給付の一部(予防訪問介護・通所介護)が、市町村が手がける事業(新しい総合事業)に移行することだ。
  “給付”と“事業”の何が違うのかといえば、後者の場合はNPO法人や住民ボランティアなどの多様な主体によるサービスを可能とし、その事業者指定や委託、および単価設定などの各種権限を市町村がもつことになる。
  これにより、現行の予防給付によるサービスの質と量が維持されるのかどうか。これが、改正法の国会審議などでも論点となってきた。また、原則としてサービスを使った分だけ介護保険から費用が支払われる「給付」と異なり、「事業」に関しては市町村単位での上限が定められる。国は「上限を超える場合は個別判断を行なう」としているが、市町村による単価設定の抑制につながる可能性もあり、この点も国会審議などでは不安材料とされた。
  そして、ここへ来て、「もう一つの不安材料」となりかねないしくみが提示された。厚労省は、今回の新しい総合事業についてのガイドライン案を示しているが、その中に総合事業にかかる「サービス利用の流れ」が描かれている。そこで注目されるのは、「介護保険を利用したい」という相談者(被保険者)が市町村(もしくは地域包括支援センターなど)の窓口を訪れたときの初期対応についてだ。
● 窓口で振り分けられることで介護サービスを受けづらくなる?
  まず、窓口を訪れた相談者に対し、担当者は「新しい総合事業」についての説明を行なう。そのうえで相談者が「総合事業のみ」を希望している場合は、要介護認定の申請につなげるのではなく、窓口でできる簡易なチェックリスト(基本チェックリスト)をもって「要介護認定を受けてもらうか」あるいは「総合事業のサービスにつなげるか」を判断するというものだ。つまり、要介護認定を受ける以前に「振り分け」が行なわれるわけだ。
  ちなみに、ガイドライン案では、「明らかに要介護1以上(つまり要支援1・2より重い)」という場合、あるいは「相談者が予防給付のまま残ったサービス(予防訪問看護や通所リハビリ、福祉用具貸与など)を希望している」という場合は、要介護認定の申請につなげるとしている。また、基本チェックリストによって「要介護認定の申請が必要」と判断された場合にも申請につなげることとなる。
  厚労省としては、要介護認定の結果が出るまでに一定時間(最大1ヶ月程度)かかることを考慮し、窓口の「振り分け」で迅速なサービスにつなげるメリットを強調している。だが、現行でも迅速なサービスが必要な場合は、要介護認定の結果が出る前に暫定的にサービス利用ができるしくみはある。むしろ、現場の窓口対応によって、「要介護認定を受ける」という被保険者の権利が侵されることはないのかどうかが懸念材料となる。
  確かに、ガイドラインでは、「総合事業によるサービスを開始した後でも、要介護認定の申請は可能」としている。十分なセーフティネットは張られているという見方もできる。だが、重要なのは「窓口による振り分け」という介護保険の入口が変質するという点だ。市町村の意向により、「できるだけ給付サービスは使わせない」という流れにならないのかどうか。被保険者として注意したいポイントだ。
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田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、『2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート』『認知症ケアができる人材の育て方』(以上、ぱる出版)、『現場で使える新人ケアマネ便利帖』(翔泳社)など多数。
  
2014.09.25
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