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病床機能報告制度がはじまる
● 7:1看護配置は高度急性期に集約の方向に
  医療制度は診療報酬体系を読み解くと、その仕組みや今後の医療施策が見えてくる。厚生労働省は公定価格である診療報酬を改定することで、施策の実現を目指す。普及させたい事業は診療報酬点数を引き上げ、逆に是正したい部分は算定要件を厳しくするわけだ。
  高齢化がすすむことで医療費の増大が懸念されている。そこで病院や診療所などの医療リソース(資源)を効率的に運用して、国民が期待する医療体制を構築しようと、今春の診療報酬改定で厚生労働省は入院医療について「病床の機能分化」を打ち出し、その一環として7:1入院基本料の要件の厳格化に乗り出した。
  とくに一般病床について、高齢化がピークを迎える平成37年に高度急性期(18万床)、一般急性期(約35万床)、亜急性期等(約26万床)の割合で機能分化を明確にしたい考えだ。急性期の患者は必要な高度かつ先端的な医療が受けられ、その一方で高齢化によって増える慢性期の患者の受け皿も整備しようとしている。
  機能別に見た病床のバランスは、現在のところとてもいびつな状態になっている。診療報酬点数が最も高い7:1入院基本料の病床が約36万床と最も多いが、本来は高度急性期を想定していた病床であるにもかかわらず、実際のところは高度急性期ではない病床も7:1入院基本料を申請している状況だ。病床の機能分化をすすめることで急性期医療へ人的資源を集中させなければならないと厚労省では考え、是正のために7:1入院基本料の算定要件が厳格になった。
● 重大な疾病も短期入院と外来治療が標準に
  7:1入院基本料の病床の患者は、複雑な病態を持つ急性期の患者に特化させる。例えば、長期入院は診療報酬点数が下がることもあり、病棟では在院日数の短縮化が課題となっているが、短期間で退院する検査入院や手術は点数計算するときの分母から除外されるなど、算定方法が厳しくなっている。また在宅復帰率も要件に含めることで、7:1入院基本料の病床は高度急性期の患者に特化させようとしている。
  是正の一環としてこのたび「病床機能報告」制度がはじまった。これは一般病床・療養病床を有する病院と有床診療所が対象で、厚労省「平成26年度病床機能報告」事務局に、所定の様式に則り、病棟単位で「高度急性期機能」「急性期機能」「回復期機能」及び「慢性期機能」の4区分から1つを選択し、その他具体的な報告事項とあわせて、インターネットを介して直接、厚労省が整備する全国共通サーバに11月14日までに報告することになっている。
  また、インターネット環境が整備されていない医療機関については、電子媒体または紙の様式を用いて事務局へ郵送もできる(法律上は都道府県知事に報告することになっているが、都道府県、医療機関の負担軽減のために全国共通サーバへの報告が採用された)。集計結果を得た都道府県は、それを基に地域の医療機能の現状を把握し、地域医療構想(ビジョン)を策定する。
  ちなみに、厚労省の病床機能情報の報告・提供の具体的なあり方に関する検討会の資料によると、高度急性期機能に該当する病棟というのは、例えば「特定機能病院において、急性期の患者に対して診療密度が特に高い医療を提供する病棟」や「救命救急病棟、集中治療室、ハイケアユニット、新生児集中治療室、新生児治療回復室、小児集中治療室、総合周産期集中治療室であって、急性期の患者に対して診療密度が特に高い医療を提供する病棟」などが考えられるとしている。
  「病床機能報告」制度によって、これまでは一般病床・療養病床とされていたものを「高度急性期機能」「急性期機能」「回復期機能」及び「慢性期機能」へ明確に区分けし、この病床機能別に地域の医療を整備していく取り組みが始まったところだ。今後は、医療経営においても、この病床機能を意識することが求められている。
※  入院患者7人に対し看護師1人という最も手厚い看護配置の病院に与えられる入院基本料の基準。他の看護配置よりも診療報酬点数が高い。
  
安藤 啓一 (あんどう・けいいち)
福祉ジャーナリスト。
千葉県出身。大学卒業後、新聞や雑誌記者を経験した後、介護福祉誌の編集長を経てフリーに。パラリンピックや障がい者支援、高齢者介護、医療経営、子育てなどの分野を中心に取材活動をしている。医療、介護と縦割りになりがちな情報を、当事者の目線にこだわり、地域発想、現場重視で「横串」編集することを心がける。鳥取県の「介護ガイドAi」(鳥広マガジン)は、編集を担当。介護テキスト、医療経営誌、介護専門誌などで執筆している。また3人娘の父親として、子育て支援活動にも取り組む。
  
  
2014.10.16
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