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特養ホームの多床室、室料の負担増へ
● 個室以外は室料負担がなかった特養ホーム
  今般の介護保険制度改正では、平成27年8月より一定以上所得者のサービス料の自己負担を2割に引き上げることが決まっている。この「一定以上所得者」について、さらに負担増となる改革案が示された。特養ホームにおける多床室(2人以上の相部屋)の居住費について、それまで発生していなかった室料相当の自己負担を求めるというものだ。ちなみに、適用されるのは、所得区分の第4段階(市町村民税課税世帯で、例えば夫婦2人世帯で本人の年金収入211万円超)となる。
  ここでまず、特養ホームの自己負担について整理しておこう。特養ホームに入所した場合、原則として利用者が負担するのは、「介護保険サービスにかかる1割負担」に加え、「食費」「居住費」となっている。この居住費というのは、いわば家賃+光熱水費にあたる。このうちの家賃にあたる部分が室料となっている。ただし、特養ホームの場合、居室の種類としてはユニット型個室、ユニット型準個室、従来型個室(ユニットを併設していない個室)、それ以外の多床室があり、多床室については光熱水費のみで室料は給付の対象となっていた。室料の自己負担は必要なかったわけだ。
  これに対し、10月29日の社会保障審議会・介護給付費分科会において冒頭で述べた自己負担案が示された。その理由として、「低所得者を支え得るのが多床室」という考え方が提示されている。つまり、第4段階であれば低所得者ではないゆえに、室料の自己負担を求めるべきという考え方だ。その設定金額について、案では人員配置基準が同じ「従来型個室」を参考にしてはどうかと述べている。
  要介護5の人が従来型個室に入った場合、介護保険からの1カ月あたりの給付はおおむね25万9,000円となる。これに対し、多床室の場合、室料相当を含めて1カ月あたりおおむね27万4,000円となっている。この従来型個室と多床室の給付額を比較した場合、1カ月あたりちょうど2万5,000円の差額が生じる。この差額分を室料として利用者負担に回すことにより、人員配置基準が同じである従来型個室と多床室の給付額が揃うことになるわけだ。
● 介護保険や医療費の自己負担増、消費増税などの追い討ちも
  もちろん、従来型とはいえ、個室と多床室では居住環境は異なる。そこで、この案を進める条件として、「多床室のプライバシーに配慮した居住環境改善に向けた取り組みを進めることとする(例:ベッド間の間仕切りを天井まで届かせるなど)」という。あくまで案の段階ではあるが、介護給付の効率化を図る流れの中では実現される公算が大きい。
  この案を受けて、事業者団体である全国老人福祉施設協議会は、自己負担増への反対を表明した。その理由として、第4段階であってもボーダー層によっては月1〜2万円の負担が難しいケースがあること、介護保険の2割負担対象と重なる層や医療費が1割から2割になる層も生じること、消費増税も大きな負担となっていることなどが掲げられている。
  そして、今案が実現した場合、もう一つ影響を受けるのがショートステイの利用だ。この室料負担は施設入所だけでなく、ショートステイの利用にも適用される。在宅における家族介護者の高齢化なども社会問題となる中で、家族のレスパイトに影響が及ばないかどうかも考慮する必要が出てくるだろう。
※  レスパイトとは息抜き、休息の意。そこから転じてレスパイトケアは、乳幼児や障害児・者、高齢者など要介護者を在宅でケアしている家族の精神的疲労を軽減するため、一時的にケアの代替を行うサービスのこと。
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田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、『2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート』『認知症ケアができる人材の育て方』(以上、ぱる出版)、『現場で使える新人ケアマネ便利帖』(翔泳社)など多数。
  
2014.11.13
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