● 高齢化に伴い、特定健康保険の医療費負担増加
現在、退職者の医療制度は、自営業者等の加入する国民健康保険の「退職者医療制度」と、健康保険組合の「特例退職被保険者制度」があります。前者の「退職者医療制度」は平成27年度以降新たな被保険者等が加入せず、制度の廃止が決まっています。後者の「特例退職被保険者制度」は引き続き存続しますが、平成27年度以降新たに加入する特例退職被保険者は退職者給付拠出金の算定対象とならないため、今後、保険者である特定健康保険組合※の医療費負担が重くなることが予想されています。
こうした状況を踏まえ、厚生労働省は規制を緩和する方針で、健康保険組合の財政負担を軽減するなど、以下のような論点から提案を進めています。
※特定健康保険組合・・・ |
健康保険組合のうち、一定の要件を満たし、厚生労働大臣の認可を受けて設立されている健康保険組合。被保険者であった退職者に対し、退職後も引き続き現役被保険者と同様の保険給付および保険事業を行うことができます。 |
● 標準報酬月額の調整や新規加入の規制などを論点に
具体的な論点の1つは、健康保険組合が退職者の保険料の算定の基礎となる標準報酬月額を上げたりできるよう、保険者の裁量を拡大する方向で見直すことです。
現状では特例退職被保険者は高齢になると医療機関にかかる機会も増え、1人当たりの医療給付費は、健康保険組合の全加入者の医療給付費の平均額に比べ約3倍弱と多くなっています。
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特例退職被保険者 (被扶養者を含む) |
健康保険組合の全被保険者 |
1人当たりの医療給付費 (平成24年度) |
316,000円 |
112,000円 |
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しかし、その一方で特例退職被保険者の保険料は、その健康保険組合の標準報酬月額の平均の2分の1の範囲内で定めることになっています。その平均額は261,980円で、これは健康保険組合の全被保険者の平均額よりも約3割少なく、負担は軽くなっています。所得の低い若手を含む現役世代が退職者を支える形となり、不公平との指摘も多く、退職者にも経済力に応じた負担を求めたいのが実情です。
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特例退職被保険者 |
健康保険組合の全被保険者 |
標準報酬月額 (平成24年度) |
261,980円 |
363,879円 |
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論点の2つめは、特例退職被保険者の新規加入についての規制です。健康保険組合の財政負担を軽くするため、増え続ける退職者の新規加入を制限したりできるようにするなど、退職者の加入条件について健康保険組合の裁量を広げることが狙いです。
ただ、新規加入の制限により、かえって特定健康保険組合の存続が危うくなることも予想できます。特定健康保険組合は大臣認可の取消を求めることができますが、現状ではその場合の移行措置が存在しないため、現役世代からも反対の声が出る可能性があり、慎重な制限策を検討しなければならないようです。
<特定健康保険組合について>
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平成24年度末時点で61組合。 |
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加入者数(特例退職被保険者とその被扶養者)は平成24年度末時点で約52万人。 |
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70歳以上が加入者数に占める割合は、平成24年度末時点で約24%。10年前と比べて4倍以上となっている。 |
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半田 美波(はんだ・みなみ)
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社会保険労務士 みなみ社会保険労務士事務所 代表、株式会社サンメディックス 代表取締役
診療所で医療事務職として勤務した後、医療法人事務長、分院の設立業務担当を経て、2003年に医療機関のサポート会社・(株)サンメディックス設立。2004年にみなみ社会保険労務士事務所を設立。医療機関に詳しい社労士として知られる。
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