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新型・介護療養病床誕生で廃止は完全白紙に?
● 医療ニーズや看取りへの対応をより充実させた施設へ
  次期介護保険の報酬・基準案が議論されている中、厚労省は11月6日の介護給付費分科会で、介護療養型医療施設(介護療養病床)の改定案を提示した。それによれば、医療ニーズや看取りへの対応をさらに充実させた「療養機能強化型介護療養型医療施設(仮称)」という新カテゴリーの創設が示されている。
  その要件として、以下の5項目をすべて満たすことを掲げている。@入院患者のうち、重篤な身体疾患を有する者および身体合併症を有する認知症高齢者が一定割合以上であること。A入院患者のうち、一定の医療処置を受けている者が一定割合以上であること。B入院患者のうち、ターミナルケアを受けている者が一定割合以上であること。C生活機能を維持改善するリハビリテーションを行なっていること。D地域に貢献する活動を行なっていること、となっている。
  @〜Bにおける「一定割合」の具体的な数字や、CDの具体的内容については、12月中にも出される基準案、もしくは来年1月の提示が予定されている報酬案で示されることになる。いずれにしても、介護療養病床の機能強化を改めて提示したことにより、当初の「2017年度までに全廃する」といった方向性はほぼ白紙に戻ったことになる。これに先立つ厚労相の国会答弁でも、機能を見直しつつの継続が示唆されていたが、その具体的な継続の形が今回提示されたわけだ。
  実際、介護療養病床におけるケアの内容を、他の介護保険2施設(特別養護老人ホームと介護老人保健施設)と比較した場合、胃ろうなどの経管栄養や喀痰吸引、摘便・浣腸といった医療処置の割合が飛び抜けて高い。数字的には、他2施設と比較して3〜5倍の高さが認められる(介護給付費分科会の資料より)。
  逆に言えば、介護療養病床が廃止された場合、これらの医療ニーズのしわ寄せが他の2施設へと一気に流れ込むことになる。あと3年で、先の3〜5倍という溝を埋めていくのは大変に厳しい状況だ。仮に強行した場合には、膨大な「医療処置ニーズ」の患者が、施設に受け入れられずに在宅へと移ることも想定される。在宅介護・療養の現状を考えれば、社会的なパニックにもなりかねない。
● 機能重点化により、施設が“患者の医療ニーズありき”となるおそれも
  では、今回の改定で危機が回避されるのかといえば、まだ課題は多い。機能を重点化した新カテゴリーが生まれるという半面、その波に乗れない施設の報酬が引き下げられる可能性もある。財務省からの圧力もあり、介護報酬全体の大幅引き下げは規定路線となりつつある。その中でミッションを果たせない施設に、現行の報酬が保たれるとは考えにくい。
  問題は、先の要件@〜Bを見ても分かるとおり、患者側のニーズありきがポイントになる点だ。これを施設の努力で果たしていくとすれば、一般病棟から医療ニーズの高い患者を選び、優先的に入院させるほかはない。その分、医療ニーズが比較的低い患者はどんどん退院させる力が働くことになる。受け皿となる特別養護老人ホームはほぼ満床、介護老人保健施設も在宅復帰のミッションが強まる中では、結局は在宅もしくは比較的重度の人の受け入れも可能なサービス付き高齢者向け住宅や有料老人ホームが「行き先」とならざるをえない。
  利用者やその家族としては、なかなかひと安心とならない状況はまだ続いている。
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田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、『2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート』『認知症ケアができる人材の育て方』(以上、ぱる出版)、『現場で使える新人ケアマネ便利帖』(翔泳社)など多数。
  
2014.11.27
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