>  今週のトピックス >  No.2935
大卒内定者囲い込みが加熱、採用側の留意点は?
● “大卒入社3年以内に3割退職”の傾向は大きく変わっていない
  先日、厚生労働省の「新規学卒者の離職状況」に関する発表により、大卒3年以内の離職率は約3割(32.4%)ということが明らかになった。この数字については20年ほど前から大幅に変更があるというほどでもなく、世間一般で共通の認識となっている。3割といっても、従業員規模別でみれば当然大企業はもっと少なく、中小企業ほど離職率はもっと高くなっているのはデータからも明らかである
  一方、採用する側の企業を見てみると、中小企業は新卒採用にかなり苦戦しているが、さらに今年は売り手市場ということでバブル時代を思い出させるような内定者の囲い込みがエスカレートしているように感じる。
  企業側の人事採用担当者は、採用枠をとにかく埋めることを意識し、内定を辞退する学生が出ないようあの手この手で学生に魅力ある内容で囲い込みに力を入れているようだ。
  大手企業は、例えば高級レストランに招待したり、テーマパークでの懇親会を開催するなどとても豪華で、中小企業も同じように魅力ある内容で学生を引きとめようとしているが、これが行き過ぎると結果的に入社後とのギャップに違和感を感じて、早期に退職ということになりかねないので注意が必要である。特にベンチャー企業では、そのような傾向があるようなので、採用する側も目先の人数確保だけでなく長期的な視点で考えるということを忘れてはならない。
※ 厚生労働省 新規学卒者の離職状況(平成23年3月卒業者の状況)
● 内定者囲い込みに関するトラブルが増加
  学生売り手市場となっている就職活動の現状では、内定者の囲い込みはやむを得ないのかもしれないが、トラブルも増えているので注意しなければならない。バブル時代には、他の企業の面接に行けないようにするための拘束旅行が結構多かったが、今はきちんと研修を行う研修旅行が多いようである。しかしながら入社前の内定の段階であまりにも長い時間の拘束はトラブルにもなりかねない。囲い込みの1つといってもあまり行き過ぎると逆に内定者は不安になり、「この会社、実は何かあるのかもしれない・・・」という疑問が出てきたりすることにもつながる。
  また自社に入社することについて親にサインをさせて確認書を提出させたりするのも、就職先について迷ったりしている段階では本人の負担になってしまう。特にそのようなことを中小企業が行ったりすると裏目に出ることもある。
  そのほか、内定段階にもかかわらず職場で本格的に労働させたりすることもあるようだが、ここにも問題がある。入社前から新卒内定者を「労働力として使ってやろう」という企業側のもくろみが垣間見えることがあるが、労働力として使うのであればもちろんそれはアルバイトであり、きちんと最低賃金以上の賃金を支払わなければ法律違反となってしまう。
  今は、インターネットでの情報収集が主体であり、SNSなどで企業の情報はたちまち広がってしまう。とくによくない噂はすぐに拡散され、そのまま今後の採用活動にも影響が出ることもある。内定者に対しては、誠実に向き合って質問などに丁寧に答えていくことが大切であり、就活生の視点になって考えていくということを意識すれば、トラブルも減少し、さらには入社後の早期離職などの予防にもつながるのではないだろうか。
  とくに中小企業は、接触回数や豪華さだけではない、質の高さを武器に内定者とのよい関係を築くのが採用成功のポイントなのではないだろうか。
  
庄司 英尚 (しょうじ・ひでたか)
株式会社アイウェーブ代表取締役、庄司社会保険労務士事務所 所長
社会保険労務士 人事コンサルタント
福島県出身。立命館大学を卒業後、大手オフィス家具メーカーにて営業職に従事。その後、都内の社会保険労務士事務所にて実務経験を積み、2001年に庄司社会保険労務士事務所を開業。その後コンサルティング業務の拡大に伴い、2006年に株式会社アイウェーブを設立。企業の業績アップと現場主義をモットーとして、中小・中堅企業を対象に人事労務アドバイザリー業務、就業規則の作成、人事制度コンサルティング、社会保険の手続及び給与計算業務を行っている。最近は、ワーク・ライフ・バランスの導入に注力し、残業時間の削減や両立支援制度の構築にも積極的に取り組んでいる。
公式サイト http://www.iwave-inc.jp/
社長ブログ http://iwave.blog73.fc2.com/
  
  
2014.12.08
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