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腎がん、胃がんのロボット支援手術が先進医療に認可
● ロボットといっても、機械が勝手に手術するわけではない
  近年、手術支援ロボット「ダヴィンチ(da Vinci Surgical System)を用いたがん手術が目覚ましい成果を出しており、厚生労働省先進医療会議は、今年8月に「内視鏡下手術用ロボットを用いた腹腔鏡下腎部分切除術」(以下、ダヴィンチによる腎がん手術と略す)を、翌9月に「内視鏡下手術用ロボットを用いた腹腔鏡下胃切除術」(以下、ダヴィンチによる胃がん手術と略す)を先進医療として了承した。腎がんは長径が7センチメートル以下でリンパ節転や遠隔転移していないもの、胃がんはステージTかUで内視鏡による検査の所見で内視鏡的胃粘膜切除術の対象ではないと判断されたものが対象となる。
  ダヴィンチによる腎がん手術を先進医療として実施できる医療機関は、神戸大学医学部附属病院、弘前大学医学部附属病院、聖路加国際病院、藤田保健衛生大学病院(愛知県)、鳥取大学医学部附属病院、広島大学病院、九州大学病院となっている。一方、胃がん手術については藤田保健衛生大学病院のみが認められている。
  先進医療の名称は「手術用ロボット」だが、一般的には「手術支援ロボット」と呼ばれることが多い。ロボットといっても自動装置なわけではなく、鉗子や電気メスなどが付いている3本のアームと1本の内視鏡カメラが備わったペイシェントカート(手術装置)を患者に横付けし、術者(執刀医)はサージョンコンソール(操作台)に向かい、内視鏡によって得られる3Dの高精細な拡大画像を見ながらコントローラーやフットペダルを動かし、患者の体内に挿入したアームや内視鏡を遠隔操作していく。術者が正確に執刀するための「内視鏡下手術支援装置」と呼ぶほうが相応しいだろう。
● 先進医療となったことで患者負担が大幅に軽減
  ダヴィンチによる手術の利点は、直接的な手技よりも複雑繊細な動作が可能となり、これにより手術精度が格段に向上したことだ。例えば、腹腔鏡下腎部分切除術の場合、腎臓への血流を一時的に止めて切除を行うことから、腎機能を温存しつつがん制御をするには高度な技術が要求される。ダヴィンチなら拡大された3D画像を確認しながら、自由度の高い鉗子で腎の切除・縫合を行えるため、低侵襲でがん制御と腎機能温存が同時に可能となった。
  また、腹腔鏡下胃切除術の場合、「主要動脈の背側に位置する脆弱な標的リンパ組織の郭清操作」は難易度の高い手技が要求されるが、ダヴィンチを用いることで極めて少ない組織裂傷で正確に実施することができる。その理由は、自然な3D画像下の拡大視効果、手振れ防止機能、多関節機能といったダヴィンチの性能に因るものだ。そして縫合もスムーズに行えることで、消化管再建にも有利と先進医療会議で評価されている。
  ダヴィンチによる手術は良いとこずくめのようだが、これまでは保険収載されている前立腺全摘術以外のすべての手術が自由診療(保険診療の対象外)であり、全額自己負担というのがネックになっていた。このほど2つの手術法において先進医療の認可がおりたことで、保険診療との併用(混合診療)が認められ、患者の負担が軽減されることになった。
  例えば、ダヴィンチによる腎がん手術の場合、総費用199万5,880円で、先進医療に係る費用93万円は患者の自己負担となるが、残りの106万5,880円については保険診療扱いとなり、3割負担(70歳未満)や高額療養費の適用が受けられる。一方、ダヴィンチによる胃がん手術の場合は、総費用199万250円で、先進医療に係る費用は130万9,400円だが、このうちの50万円はダヴィンチのメーカーが無償提供してくれるので患者負担は80万9,400円となり、残りの68万850円は保険診療扱いとなる(どちらの費用も第22回先進医療会議資料より)。
  
安藤 啓一 (あんどう・けいいち)
福祉ジャーナリスト。
千葉県出身。大学卒業後、新聞や雑誌記者を経験した後、介護福祉誌の編集長を経てフリーに。パラリンピックや障がい者支援、高齢者介護、医療経営、子育てなどの分野を中心に取材活動をしている。医療、介護と縦割りになりがちな情報を、当事者の目線にこだわり、地域発想、現場重視で「横串」編集することを心がける。鳥取県の「介護ガイドAi」(鳥広マガジン)は、編集を担当。介護テキスト、医療経営誌、介護専門誌などで執筆している。また3人娘の父親として、子育て支援活動にも取り組む。
  
  
2014.12.08
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