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相続税増税には「小規模宅地等の課税の特例」の活用を!
● 適用対象面積の拡充と限度面積要件の緩和
  平成25年度税制改正による相続税の見直しにおいて、来年1月から基礎控除が引き下げられ、最高税率が引き上げられる結果、地価の高い都市部の土地所有者の負担がより増すとみられている。特に、土地については、生活・事業の基盤である一方、切り分けて売却することに困難が伴うとともに、都市計画上も土地の細分化が生じてしまうことから、一定の配慮が求められる。こうした状況に配慮するため小規模宅地等の特例について、見直しが併せて行われている。
  改正の内容は、
(1) 特定居住用宅地等に係る適用面積の上限を330平方メートル(改正前:240平方メートル)に拡充、
(2) 限度面積要件について、特定事業用等宅地等及び特定居住用宅地等のみを特例の対象として選択する場合については、限度面積の調整を行わないこととし、それぞれの限度面積(特定事業用等宅地等400平方メートル、特定居住用宅地等330平方メートル)まで適用できるように緩和された。
  例えば、農家では居宅のほかに農機具置場、作業場などの農業用施設用地を所有している場合も多いが、この改正により、このような場合には特定居住用宅地等(最大330平方メートル)のほかに特定事業用宅地等として農業用施設用地(最大400平方メートル)も特例の対象となるため、最大で730平方メートルまでがこの特例の対象となる。また、居宅と事業所を別々に所有している事業者なども同様に両者の調整なく、それぞれの限度面積まで(最大730平方メートルまで)適用が可能となる。
● 特例適用で一般家庭はほとんど課税されない?
  今回の相続税法の改正によって、基礎控除額が改正前に比べて6割に縮減された。そのため、相続税の納税が必要となる相続が増える、あるいは納税額が改正前に比べて増加するという影響が指摘されているが、一体どれくらいの影響が出るのか気になるところだろう。
  そこで、東京都内のある高級住宅地に土地(40坪7,500万円)と建物(1,000万円)があり、預貯金2,000万円の計1億500万円を相続した場合のケースでみてみよう。なお、土地については小規模宅地等の課税の特例が適用でき、相続税額は、相続人が法定相続分により相続したものと仮定して計算している。
  被相続人が父親で相続人が配偶者と子2人の場合、小規模宅地等の特例(評価額を8割減額)を適用すると、土地の評価額は7,500万円→1,500万円に減額され、課税遺産総額が基礎控除額以下となるため、改正前も改正後も相続税はかからない。また、被相続人が母親で相続人が子2人の場合、小規模宅地等の特例を適用すると、改正前は相続税がかからないのに対して、改正後は相続税がかかるが、その税額は30万円におさまる(負担割合は0.3%)。このように、小規模宅地等の課税の特例が適用できれば、上記の事例では改正前と改正後を比べても、それほど大きな影響はないと言えるだろう。
  ちなみに、全国消費者実態調査(平成21年総務省)によると、東京23区における1世帯当たりの平均資産額は8,157万円(自宅5,820万円、預貯金2,337万円)だが、この場合で、法定相続人が3人のときは、小規模宅地等の特例を適用すると、改正前でも改正後でも相続税はかからないことになる。
  
浅野 宗玄(あさの・むねはる)
株式会社タックス・コム代表取締役
税金ジャーナリスト
1948年生まれ。税務・経営関連専門誌の編集を経て、2000年に株式会社タックス・コムを設立。同社代表、ジャーナリストとしても週刊誌等に執筆。著書に『住基ネットとプライバシー問題』(中央経済社)など。
http://www.taxcom.co.jp/
○タックス・コム企画・編集の新刊書籍『生命保険法人契約を考える』
http://www.taxcom.co.jp/seimeihoujin/index.html
  
2014.12.25
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