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消費税増税延期にともなう社会保障制度改革のゆくえ
  消費税増税対応の延期(H29.4月)決定を機に行われた衆議院解散総選挙。これに伴い、H27年度税制改正大綱の決定や、組み直しも考慮すべく消費税の代替財源が明示されるH27年度予算(案)の閣議決定も遅延している。一方で、直近のGDP成長率のマイナス傾向や、2%の物価上昇を目的とした日銀の追加緩和政策も継続している。こうした中で、安部政権の改革の重要部分の多くがこれからの決定に託されている。
  今回は、主な社会保障制度改革と消費税増税延期の関係について整理してみた。
● 各分野の社会保障政策の実施状況は?
  以下のそれぞれの項目は、「社会保障と税の一体改革」大綱決定・改革推進法と関連法の成立・国民会議の報告・改革プログラム法の成立等を経て順次スケジュール化されていたものである(カッコ内は実施(予定)時期)。
<年金分野>
これまで実施されてきたものとしては、
  ・基礎年金財源の1/2国庫負担(実質H26年度〜)
  ・遺族基礎年金の父子家庭への給付(H26.4〜)
  ・産休期間中の健康保険・厚生年金保険料の免除(H26.4〜)
  ・物価スライド特例水準の解消(H27.4完結予定)
などがある。今後は、
  ・厚生年金と共済年金の一元化(H27.10〜)
  ・短時間労働者への健康保険・厚生年金の適用(H28.10〜)
などが予定されている。
  このほかに低所得年金生活者への支援給付金(H27.10〜)、国民年金受給資格取得期間の25年から10年への短縮(H27.10〜)なども予定されていたが、これらは消費税10%が前提となっていたものである。
<医療分野>
これまで実施されてきたものとしては、
  ・国民健康保険・後期高齢者医療制度の低所得者の保険料軽減措置(H26.4〜)
  ・70〜74歳の給付時自己負担額の2割本則化(H26.4〜)
などがあり、今年1月から
  ・70歳未満上位所得者の負担能力に合わせた高額療養費の所得区分細分化(H27.1〜)
  ・難病・小児慢性特定疾患対策としての医療費助成制度(H27.1〜)
が始まる。
今後の政策として、
  ・財政基盤の安定化と医療サービス等の提供体制改革(順次)
  ・都道府県・市町村間の連携と財政支援制度(順次)
などが挙げられている。
<介護分野>
介護の分野では、今年、介護報酬が大幅に引き下げられる見通しだ。そのほか、
  ・特別養護老人ホーム入所要件の厳格化(H27.4〜)
  ・一定以上所得者(第1号被保険者)の利用者負担を2割に(H27.8〜)
  ・低所得の施設利用者の補足給付(住居・食費等)要件に資産を追加(H27.8〜)
などが予定されている。
  また、低所得の第1号被保険者の保険料負担軽減措置(H27年度中)、地域包括ケアシステムの構築に向けた医療介護の連携と地域の実情に応じた予防給付(順次)、なども今後の施策として挙げられているが、これらも消費税10%を想定して予定されたものである。
● 増税時期延期で少子化対策はどうなる?
  このほか、子ども・子育て支援(少子化対策)の分野については、平成26年4月に雇用保険における育児休業給付の支給割合が増額された。しかし、待機児童解消のためのさまざまなプランは、政府が予定通り優先実施をさけんでいるものの、H27年度からの“消費税10%施行”を想定した対応とされていたため、今後の動向が注目される。
  このように、消費税増税延期に影響を受ける施策はいくつもあるが、国の財政再建への取組みは緊急課題であり、実施されている施策は全体として社会保障制度の改革よりも現状の効率化を先に固めた感がある。
  個人的には、今後は年金分野では昨年の財政検証結果も踏まえた「マクロ経済スライドの適用」「保険料納付期間や年金支給開始時期」「適正な年金課税のあり方」、医療分野では「医療保険制度への国庫補助」「後期高齢者医療制度への各制度支援金(全面総報酬割)」「被用者保険の標準報酬月額上限引上げ」、介護分野では「地域支援事業等の円滑な見直し」「介護納付金(第2号被保険者の保険料)の総報酬割の検討」など、具体的な財源確保と給付抑制の根幹部分に係る決定には強い関心を持ってみていきたい。
2015.01.13
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