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介護報酬マイナス2.27%がもたらす影響
■ 「重点化」部分を伸ばすため、その他の部分をマイナスに
  1月14日、平成27年度予算案が閣議決定され、注目されていた次期介護報酬の改定率も示された。大方の予想通り平成18年度以来のマイナス改定となり、そのマイナス幅は介護報酬全体で2.27%となっている。
  平成18年度のマイナス2.4%には及ばないものの、昨今の物価高や高齢化にともなう介護ニーズの拡大を考えれば、現場には厳しい平成27年度予算案改定となった。全国老人保健施設協会など介護保険3施設団体は19日に異例の合同記者会見を開き、マイナス改定に対して強い懸念と断固反対を訴えており、今後業界内でさまざまな影響が及んでくることが想定される。
  注意したいのは全体のマイナス幅のみならず、その中身だ。全体ではマイナス2.27%だが、国が「重点化」を進める部分はプラスとなっている。1つは、介護職員の処遇改善にかける部分で、これはプラス1.65%。もう1つは、増え続ける中重度の要介護者や認知症高齢者への対応に重点化した部分で、こちらはプラス0.56%となっている。ただし、「重点化」部分が伸びたことにより、その他の部分についてはマイナス4.48%と、全体よりもマイナス幅は広がることになった。
  国としては「メリハリを効かせた」ということになるのだろうが、全体が底上げされないままメリハリをつければ、職種やサービスの内容によっては格差が生じる恐れもある。
  たとえば、処遇改善についていえば、報酬上で主に具体化されるのは「介護職員処遇改善加算」となる。これは、各サービス費用に一定の加算率を乗じ、それを上乗せ分として介護職員の処遇改善にあてるというものだ。
  この加算率がどうなるのかは、2月6日に予定されている報酬単価案の提示を待たなければならない。予算案では、1人あたり月額1万2,000円の処遇改善をめざすことが明記されているが、計算のベースとなる基本報酬が下がることになるので、単純に1.65%を上乗せすればいいというものではない。
■ 介護職員の処遇改善に向けて
  問題は、処遇改善の対象は介護職員のみであり、看護師やリハビリ職、ケアマネジャーなどは対象となっていない。そもそも介護職より給与は高いという見方もあるが、ケアマネジャーなどは介護職にとってキャリアアップの1つの到達点である。その処遇改善に限界があるとすれば、昇給が頭打ちになる意味も含めて労働意欲の減退に結びつきかねない。
  より専門性の高い職種については、もう1つのプラス改定である「中重度対応」などに特化していけば(1月19日に公表された介護給付費分科会の審議報告では、こうした部分に高い加算が次々とついている)、おのずと処遇改善も進むというのが国の狙いではある。だが、ここでも別の問題が生じてくる。
  看護職やリハビリ職の人材数は地域格差が大きく、「その人員配置を手厚くしなければ、高い報酬はとれない」となれば、人材の奪い合いという状況も起こり得る。採用コストなどの資力がある大手事業者・施設には有利だが、資力に乏しい事業者は「人手を厚くする」ことを最初からあきらめ、それによってさらに収益が下がるという悪循環におちいる。
  こうした事業者・施設が撤退したり縮小を図れば、今度は地域によってサービス資源の寡占化や不足という事態が生じかねない。今回の改定は、国にとっては大きな賭けとなる。
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田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、『2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート』『認知症ケアができる人材の育て方』(以上、ぱる出版)、『現場で使える新人ケアマネ便利帖』(翔泳社)など多数。
  
2015.01.29
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