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子育てと介護に同時に直面するダブルケアが増加傾向
● 乳幼児の母親の3割がダブルケアに直面する!?
  乳幼児の子育てをしながら同時に介護も担うダブルケアに直面している女性が増えている。横浜国立大学の相馬直子准教授、英国ブリストル大学の山下順子講師らによる共同研究で明らかになった(「東アジアにおける介護と育児のダブルケア負担に関するケアレジーム比較分析」の研究成果の一部)。
  同研究の対象は東アジア(日本・韓国・台湾・香港)の末子が6歳以下の子どもを持つ女性で、サンプル数は4か国で延べ約3,400人、うち日本は約1,900人にのぼる。日本では、子育て支援センターなどでの質問紙票調査や子育てメールマガジン登録者を対象とした携帯電話調査を行い、さらに回答者の中で同意してくれた人にはインタビュー調査(32ケース)も行っている。
  日本での調査結果は、ダブルケアに現在直面中・過去に直面した人は14.2%、数年先に直面する人は17.8%、それらを合計した該当する人は3割を超えた。幼児・児童の子育てをしている人に限ると、4割近い人が該当している。かつては子どもの手が離れた後、年老いた親の面倒をみるのが一般的であったが、晩婚化・晩産化に加え、介護を分担する兄弟姉妹の減少(少子化)、親世代の高齢化が進んでいることがダブルケア増加のおもな要因といえよう。
  現在ダブルケアに直面している女性を見ると、平均年齢は約41歳。約半数は仕事(正規職・パートやアルバイト・派遣・自営業)を抱えながら子育てと介護に奮闘している。かつてと比べ専業主婦が減り、共働き世帯が増加していることも負担を重くしている要因といえよう。
  負担感が多いものを順に挙げていくと、「精神的にしんどい」「体力的にしんどい」「親・義理の親の世話を十分にできない」「子どもの世話を十分にできない」「兄弟や親戚間での認識のズレ」「経済的負担」「子どもの預け先不足」「遠距離介護」などであった。
  精神的・体力的にしんどいを挙げている人が多いことからも、夫(パートナー)が家事や育児、介護をあまり分担してくれない世帯が多いことがうかがえる。その一方で、「誰がダブルケアをするのを支えてくれましたか?」という質問に対しては、夫と答えた人が半数以上(約57%)を占めるが、具体的な内容は「精神的な理解」に留まるので、家事分担などの関わりが期待される。そうしたなか目立つのがケアマネージャー=約19%、ホームヘルパー=約13%で、訪問型支援者がキーパーソンとなっていることがわかった。
● 子育てと介護を包括する支援やサービスが必要
  気になるのが、ダブルケアに孤立無援で直面している人の存在だ。「誰も助けてくれなかった」と回答した人が約12%もいた(過去に直面した人では約17%)。例えば保育園の職員は、母親の子育て不安に寄り添うようにはするが、その母親がダブルケアをしていることには気づきにくい。個人情報保護法の施行以来、世帯情報の取得が難しくなっていることも理由の一つだ。
  また公的窓口も、介護の地域包括支援センターと子育て支援センターはほとんどの地域で連携しておらず、ダブルケアを支える環境は未整備のままだ。この調査でも、「役所の窓口でたらい回しにあった」「忙しくて子育て支援のサロンへ行けない」「ママ友にダブルケアの話ができない」といった回答もあり、ダブルケアラー(子育てしながら介護する人)は孤立しがちだ。
  サービス面では、たとえは介護のデイサービスと保育所の開園時間が不一致のため仕事に支障をきたしているようなこともある。そうしたことから本研究では、「高齢者・子育ての両支援の連携」「支援対象者別の縦割り計画からの脱却」などが必要だと訴えている。
  
安藤 啓一 (あんどう・けいいち)
福祉ジャーナリスト。
千葉県出身。大学卒業後、新聞や雑誌記者を経験した後、介護福祉誌の編集長を経てフリーに。パラリンピックや障がい者支援、高齢者介護、医療経営、子育てなどの分野を中心に取材活動をしている。医療、介護と縦割りになりがちな情報を、当事者の目線にこだわり、地域発想、現場重視で「横串」編集することを心がける。鳥取県の「介護ガイドAi」(鳥広マガジン)は、編集を担当。介護テキスト、医療経営誌、介護専門誌などで執筆している。また3人娘の父親として、子育て支援活動にも取り組む。
  
  
2015.02.05
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