>  今週のトピックス >  No.2998
医療保険改革とともに進む傷病手当金の改正
  マスコミ等でさかんに「医療保険改革」が報道されているが、その中心は市区町村が運営している国民健康保険の財源の安定化をはかることである。
  法案(持続可能な医療保険制度を構築するための国民健康保険法等の一部を改正する法律案)はすでに3月3日に提出されており、今国会を通れば法改正がなされることになるのだが、その中に国民健康保険とは関係のない(国保では任意給付)傷病手当金の改正も含まれている。
● 標準報酬日額の3分の2の給付
  ご存じのとおり、傷病手当金は病気やケガで就労できないときに、協会けんぽや健康保険組合、共済組合から支給される。一部の健康保険組合や共済組合では付加給付が行われているが、原則は標準報酬日額の3分の2が最長1年6ヵ月の期間支給されるものだ。
  生命保険の販売現場では「賞与を含まない月給だけを基準にして保障されるため、傷病手当金だけを頼りにしていれば、もしもの場合の生活費に困窮することになる」というような話法で医療保障等の販売が行われている。
  しかし、現実には我々の想像を超えるような手口で傷病手当金を受け取っている悪者もなかにはいるようだ。
● 制度の穴を突く不正受給があとを絶たない
  傷病手当金そのものは被保険者の収入が途絶えたときに本人や家族の生活を支える大切な制度なのだが、残念ながら制度の穴を突いた不正受給があとを絶たないことが報告されている。
  少々古い話になるが、平成22年の社会保障審議会に協会けんぽから提出された資料のなかに、「事業主が従業員にうつ病を装わせ、医師に偽りの訴えを行わせ、約2,890万円の傷病手当金を不正受給した」という事例がある。
  また、同じ資料のなかに、高額な標準報酬月額で傷病手当金を受給する者にいびつな特徴を有するデータがある。どういう特徴かというと、標準報酬月額の最高ランク(121万円)で傷病手当金を受給する受給者が、「全受給者の分布では全体の0.2%」であるのに対し、「資格取得又は随時改定から支給開始日までの期間が2ヵ月未満の受給者の分布では0.6%」というものだ。休業直前に標準報酬月額のランクを引き上げ、その後に入院・休業して月80万円を超える(121万円×2/3)傷病手当金を不正受給しているのであろうことが容易に想像される。
  この不正受給については、健康保険組合や共済組合等ではあまり起こっておらず、多くの中小事業所を抱え、事業主やその従業員の顔が見えづらい協会けんぽで大きな問題となっている。
● 傷病手当金の改正内容
  また、国会に提出されている法律案では、「標準報酬日額の3分の2」の規定を「傷病手当金の支給を始める日の属する月以前の直近の継続した12ヵ月間の平均の標準報酬日額の3分の2」とすることになっている。つまり、直近の金額ではなく、「直前1年間の標準報酬日額の平均」を基準額とする方法に変えるものだ。
  また、被保険者資格取得直後に高額な標準報酬月額で傷病手当金を不正受給する者への対策として、被保険者期間が1年に満たない場合には「その者の被保険者期間の標準報酬日額の平均」または「その保険者の全被保険者の平均標準報酬日額」のいずれか低い方を基準額とすることも記されている。
  順調に法案が通れば、来年4月から上記の標準報酬日額の考え方が導入される予定である。生保各社の医療保障に対するアプローチの仕方にも変化が見られることになるのであろうか。
2015.04.02
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