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未届け有料老人ホーム、実態把握は進むのか?
■ 届出を出すよう指導されても8割は未届け
  厚生労働省は3月30日、「有料老人ホームを対象とした指導状況等のフォローアップ調査(第6回)」(平成26年10月時点)の結果を公表した。これは有料老人ホームの届出を受理する都道府県や中核市、政令指定都市からの報告をまとめたものだ。
  調査によれば、届出済の有料老人ホームは全国に9,941件で、対して未届けで実態把握がなされたホームが961件となっている。後者の未届けの数は、累計でもっとも少なかった平成22年10月時点の第2回調査と比較して約4倍に増えたことになる。実態把握がなされた有料老人ホーム全体では、約9%が未届けとなる計算だ。
  これは都道府県等の実態把握が進んだことが背景にあるが、特養ホームなどへの入所が難しくなっている昨今、水面下で未届けのホームが受け皿となりつつある状況も否定できない。
  有料老人ホームの定義は、介護、食事、洗濯・掃除などの家事、健康管理などのサービス提供がなされている住まいのことであり、老人福祉法上では、いずれかのサービスが提供されている場合は「有料老人ホーム」としての届出を都道府県等に行わなければならない。つまり、未届けホームは違法であり、「届出をする」ことを求められる。だが、これによってスムーズな届出がなされるとは限らない。
  ちなみに、平成25年10月時点で「届出を出す」ように指導された未届けホームは666件ある。そのうち、1年後に届出がなされたホームは154件しかない。つまり、約8割が未届けのままとなっている。
■ 身体拘束や虐待は“密室状態”によって発生しやすくなるが…
  未届けで問題となるのは、運営者側に「実態を公表する」意思が乏しいことだ。そのため、行政による実態把握がどうしても後手に回りがちとなる。つまり、そこでどのようなサービスがなされているかについては、「密室状態」になるケースが増えることだ。
  外部の目が入らないということは、当然コンプライアンスも働きにくくなる。そのため、たとえば従事者による違法な身体拘束や虐待などのリスクも高まっていく。先だって、未届けの有料老人ホームで3人の従事者が入居者に暴行を加えたとして逮捕された。そのうちの1人は暴行の様子を動画撮影までしていたといい、これなどは「密室状態」によって倫理観の麻痺などが進んでしまうことを表している。
  今後実態把握はさらに進むことになるだろうが、同時に考えておかなければならないのは、高齢者の住まい確保の問題だ。高度成長期にマイホームやマンションを購入した世代が高齢化し、同時に住まいの老朽化などが進行している。しかし、内閣府の調査では、高齢者世帯のうち毎月の家計が赤字という状況が4割に達している。つまり、現状の住まいに「住みづらさ」を感じても高額な有料老人ホームなどへの住み替えはなかなか進まないということだ。
  いきおい、サービスや生活管理にかかるコストを削減した「格安の住まい」にニーズが集まってくる。入居者の処遇面を省力化すれば、身体拘束などの違法行為を生みやすくなり、それゆえに実態把握から逃れようとする事業者も増えることになる。
  現在、国土交通省などは、高齢者の「安心居住政策研究会」などを開催しているが、こうした施策のスピードアップがアンダーグラウンドな市場の拡大防止に追いつくのかどうか。今後も国家的な課題となるだろう。
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<目次>
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第2章 まず、最も利用者の多い訪問・通所介護を掘り下げよう
第3章 特養ホーム等、施設の基本報酬ダウンと中重度者対応への重点施策
第4章 在宅系サービスでは、“重点化”はどう反映されたのか
第5章 国の最重要施策“認知症”対策と介護保険との関係はどうなるのか?
第6章 手厚く加算されたリハビリ・マネジメントの強化で仕事はどう変わるのか
第7章 介護職員の処遇改善はどのように進んだのか
第8章 総合事業による介護保険の「スリム化」そして“重点化”にどう対応したらいいのか
  
田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、『2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート』『認知症ケアができる人材の育て方』(以上、ぱる出版)、『現場で使える新人ケアマネ便利帖』(翔泳社)など多数。
  
2015.04.13
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