>  今週のトピックス >  No.3012
深刻化する「摂食障害」への治療支援
■ 未だ発症の原因が解明できない難病
  さまざまな疾患の中には、患者数が急増しているにもかかわらず、治療支援の体制が十分に追いついていないというものも多い。「摂食障害」もその一つだ。
  厚労省の患者調査によれば、平成に入ってしばらくは年間1万人足らずだった患者数が、平成8年から急増し、平成23年には3万3000人に達している。摂食障害には、神経性食欲不振症(いわゆる拒食症)、神経性過食症、非定型摂食障害があるが、中でも拒食症が半数以上を占めている。
  問題なのは、「神経性」とはうたわれているものの、発症のメカニズムが完全には解明されていないことだ。厚労省のHPでも、「社会・文化的要因、心理的要因、生物学的要因が複雑に関与している」としたうえで、「遺伝子・環境因子の相互作用による多因子的疾患と考えられる」という具合に、いまだ因果関係を断定できていない(なお、遺伝因子とは「病院にかかりやすい先天的な因子」のことで、これ自体の解析はまだ十分に行われていないが「病気自体が遺伝する」ということではない)。多因子的疾患であるとした場合、治療支援のアプローチも長期・多岐に亘らなくてはならず、それゆえに治療にかかわる専門職側が疲弊しがちとなる点が危惧されている。
  実際、厚労省の研究委託調査では、治療開始後4年経過した患者の追跡調査では、「全快」は半分に満たない。37%が4年経過後も「摂食障害」に苦しみ、「死亡」に至った患者も7%にのぼっている。こうした難治性の病気であること受け、神経性食欲不振症・過食症について、国は難病に指定している。130種類の難病指定の中で、心因性の疾患で難病に指定されているのは、この2つだけだ。
■ 厚労省、摂食障害治療支援センターの設置に取り組む
  周知のとおり、平成25年4月より、指定された難病の患者については、身体障害者手帳の所持の有無にかかわらず、障害者総合支援法によって障害福祉サービス等の受給が可能となっている。摂食障害の場合、日常的な心身への負担が症状の悪化につながりやすい。その点を考えたとき、医療との連携による障害福祉分野の支援も完治に向けたポイントとなる。
  しかし、何より求められているのは、拒食症に対する専門的な治療機関である。拒食症の場合、腎不全や電解質異常などのように命にかかわる合併症も大きな問題となる。そのため、専門医を中心とした多くの診療科との恒常的なネットワークなどを構築しなければならない。そこで、厚労省は平成26年度から「摂食障害治療支援センター」設置運営事業を行なっており、平成27年度も引き続き執り行われることとなった。
  具体的には、精神科・心療内科外来を有する救急医療体制が整備された総合病院を対象として、全国5ヶ所に同センターを指定する。各センターでは、急性期における患者対応や専門的な相談支援を手がけるとともに、患者のかかりつけ医などに助言・指導、啓発などを行なう。
  摂食障害のうち、拒食症については発症の平均年齢は17.8歳となっており、ストレスに過敏になりやすい思春期での発症が目立つ。そうした若い世代が成人に至っても難治に苦しみ続ければ、いずれ大きな社会問題にもなってくるだろう。摂食障害の治療に向けて、一刻も早い研究の推進とともに、発症させやすい社会的要因などの分析、地域での支援体制など多角的な方策を進める必要がある。
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第4章 在宅系サービスでは、“重点化”はどう反映されたのか
第5章 国の最重要施策“認知症”対策と介護保険との関係はどうなるのか?
第6章 手厚く加算されたリハビリ・マネジメントの強化で仕事はどう変わるのか
第7章 介護職員の処遇改善はどのように進んだのか
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田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、『2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート』『認知症ケアができる人材の育て方』(以上、ぱる出版)、『現場で使える新人ケアマネ便利帖』(翔泳社)など多数。
  
2015.04.27
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