>  今週のトピックス >  No.3018
宿泊系サービス改革で在宅介護の受け皿は?
■ 「お泊りデイ」に運営ガイドラインを設定
  平成27年度の介護報酬改定におけるポイントの一つに、宿泊系サービスにおける改革がある。在宅の利用者の重度化が加速する一方で、同居家族の高齢化などによる家族のレスパイト(休息)ニーズも急速に高まっている。国がかかげる地域包括ケアを実現するうえでも最重要の課題といえる。
  もっとも注目を集めたのは、デイサービス事業の基準に「お泊りデイ」を含めたことだ。介護保険の指定事業所が手がけるとはいえ、「お泊りデイ」自体は保険外の自主事業であり、ここに保険制度で基準を定めることは異例といえる。それだけ休息ニーズの受け皿としての期待は高いわけだ。また、なじみのデイサービスが手がける「お泊り」であれば、利用者側の信頼も確保しやすく、それが市場の拡大を後押ししている状況もある。
  しかし、逆にいえば、介護保険による宿泊系サービス、代表的なものではショートステイの資源不足や使いにくさの裏返しであると言ってもいい。当然、国としてもこの部分に改善を加えることが必須となっていた。
  このショートステイの改定では、まず緊急時の受入れにかかる報酬上の評価を拡充し、加えて担当ケアマネジャーがやむを得ないと判断した場合には、専用の居室以外(静養室など)での受入れも可能にした。
  さらに、ショートステイの利用では、「事業所とのなじみが薄い場合、利用者の状態が悪化して戻ってくる」というケースがネックになっている。家族にとっては、サービス利用後の介護負担が逆に増してしまう点が「使いにくい」背景の一つとなりがちだ。この点を改善すべく、生活介護系のショートステイ(短期入所生活介護)において、個別機能訓練に対する報酬上の評価を盛り込んだ。
  注目したいのは、計画的(つまり家族の休息を進めるために定期的に利用すること)な利用を行う場合、事前に利用者宅を訪問して訓練計画の見直しを行うことを要件にした点だ。これにより、事業者側は利用者の生活状況などをより把握しやすくなり、利用者にとっても無理のない訓練が進みやすくなる。
■ 拡充策がレスパイトケアにどこまで結びつく?
  また、同じく生活介護型のショートステイで重い療養ニーズの利用者が増えることを想定して、看護師による定期的な巡視などを要件としつつ「一定の医療処置(喀痰吸引や人工呼吸器の装着など)が必要な人」の受け入れに対して報酬上の評価を行っている。今まで、重い療養ニーズがある場合に「利用を断られていた」というケースが目立つ中、少しでも受け皿の拡大を図ろうというわけだ。
  この他、訪問・通い・泊まりの機能を備えた小規模多機能型居宅介護において、事前の登録者以外でも使えるという「短期利用型」を新たに設けている。定員の空きがある場合に限られているが、これも受け皿拡充策の一つといえる。さらに、有料老人ホームなどにおける短期利用についても、これまでの「本来入居者の入居率80%以上」という要件を撤廃し、受け入れやすい規制緩和が進んだ。
  こうしたさまざまな宿泊系の拡充策が、果たして家族のレスパイト(休息)にどこまで寄与することができるか。大切なのは、担当ケアマネジャーによるサービス周知とコーディネート力であり、今後は宿泊系サービスに関する知識が深いか否かが、ケアマネジャー選択のカギとなっていくかもしれない。
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<目次>
第1章 今回の介護保険制度改正の狙いは何か
第2章 まず、最も利用者の多い訪問・通所介護を掘り下げよう
第3章 特養ホーム等、施設の基本報酬ダウンと中重度者対応への重点施策
第4章 在宅系サービスでは、“重点化”はどう反映されたのか
第5章 国の最重要施策“認知症”対策と介護保険との関係はどうなるのか?
第6章 手厚く加算されたリハビリ・マネジメントの強化で仕事はどう変わるのか
第7章 介護職員の処遇改善はどのように進んだのか
第8章 総合事業による介護保険の「スリム化」そして“重点化”にどう対応したらいいのか
  
田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、『2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート』『認知症ケアができる人材の育て方』(以上、ぱる出版)、『現場で使える新人ケアマネ便利帖』(翔泳社)など多数。
  
2015.05.14
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