>  今週のトピックス >  No.3019
介護報酬改定で利用者への影響じわり
● 特養の「短期入所の長期利用」に規制
  介護報酬が改定されて1ヶ月が過ぎた。要支援向けサービスが介護保険給付から市町村による総合事業へと移ることが注目されているが、その期限は平成29年3月だ。多くの自治体は移行を猶予期間いっぱいまで引き延ばす模様のため、現時点では利用者への影響はまだでていない。都内のあるケアマネジャーは、「利用者は改定の影響を実感するまでには至っていない」と話す。15年8月から介護サービスの自己負担が年収の多い人は1割から2割に引き上げられるが、「問い合わせは少ない。これからていねいに説明していく」という。
  そうしたなか、じわじわと利用者に影響の出そうな改定項目がいくつかある。その一つが「ショートステイ」の利用適正化だ。短期入所生活介護において、長期間の利用者(自費利用などを挟み実質連続30 日を超える利用者)について以下の減算が新規にできたのだ。
長期利用者に対する短期入所生活介護 → △30単位/日
算定用件等:連続して30日を超えて同一の指定短期入所生活介護事業所に入所している場合であって、指定短期入所生活介護を受けている利用者に対して、指定短期入所生活介護を行った場合、所定単位数から減算を行う。
  特別養護老人ホームを入所申請しても利用できない待機者が全国で50万人ほどいる。そして入所規準が原則として要介護3以上となったことから、認知症などで在宅介護が難しいものの要介護度が3未満というケースでは原則として入所できなくなった(老人福祉法の措置入所という裏技もあるが、適用は難しい)。
  そうした施設に入れない高齢者の受け皿となってきたのが「短期入所の長期利用」だ。いわゆる“ロングショート”と呼ばれているものだが、今回の報酬改定で30日を越える利用については減算となった。利用者は自費利用を挟むことで利用日数をリセットすることもできなくなり、施設は長期滞在を受けにくくなる。都内で特養を運営する社会福祉法人の施設長は、「入院中で空いているベッドを活用してショートステイを定員の倍以上受け入れて利益率を確保してきたが…」と今後の方針について悩んでいた。
● 余暇サービス的な小型デイを規制か!?
  仕事や子育てと介護を両立する家族が頼りにしていた通所サービスも利用しにくくなってきた。今年度から介護予防の通所サービスは2〜3割減の大幅なマイナス改定となっており、この影響が大きい。
介護予防通所介護費の適正化
要支援1 2115単位/月 → 1647単位/月
要支援2 4236単位/月 → 3377単位/月
  デイサービス事業者は要介護と要支援で区別することなくサービスを提供しているが、そうすると相対的に要支援のサービスが過剰になっているというのが厚労省による減算の説明だ。これは実質的に要支援のデイサービス利用制限である。
  西日本の県庁所在地にある地域包括支援センターの主任ケアマネは、「要支援の新規利用を断られるようになった。事業者の事情は分かるけれど、社会福祉協議会の福祉サービスやボランティア団体のサークル活動をデイサービスの代替に検討しても、健常の人向けなので生活機能の低下している利用者を受け入れるのは難しい。新しい受け皿を探さなければ介護する家族が疲弊してしまう」と心配する。介護保険サービスと元気な高齢者が通う介護予防教室の中間を担えるサービスが見あたらないのだ。
  また厚労省は昨年の介護給付費分科会において家族の介護負担を軽減するレスパイトはデイサービスの利用ではなく、本人の生活機能の向上によって達成できると説明している。現在、多くの家族が期待しているデイサービスのレスパイト利用が否定されたわけで、こうした方針が今回の改定につながっている。
  厚労省は制度の適正化と説明するが、利用条件の厳格化であり、そこからこぼれる利用者がでてきた。前出の主任ケアマネは、「介護サービスを利用する目的の見直しを促したい。漫然と利用するのではなく、どういった課題があり、その支援で必要なサービスは何かを具体的に検討することでこの改定を乗り切りたい」と話していた。
  幸いなことに弁当を戸別配送する配食サービスやスーパーによる宅配、介護タクシーなど在宅高齢者に便利な民間サービスが充実してきた。介護保険一辺倒ではなく、こうした民間サービスも積極的に使うことが自立支援では重要になっている。
レスパイトケアの略。高齢者や障害者などを在宅で介護・看護している家族に休息をとってもらうために、一時的に交替してリフレッシュを図ってもらう家族支援サービスのこと。
  
安藤 啓一 (あんどう・けいいち)
福祉ジャーナリスト。
千葉県出身。大学卒業後、新聞や雑誌記者を経験した後、介護福祉誌の編集長を経てフリーに。パラリンピックや障がい者支援、高齢者介護、医療経営、子育てなどの分野を中心に取材活動をしている。医療、介護と縦割りになりがちな情報を、当事者の目線にこだわり、地域発想、現場重視で「横串」編集することを心がける。鳥取県の「介護ガイドAi」(鳥広マガジン)は、編集を担当。介護テキスト、医療経営誌、介護専門誌などで執筆している。また3人娘の父親として、子育て支援活動にも取り組む。
  
  
2015.05.18
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