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財務省が「救急車の有料化」を提言
■ 適正利用を求める活動が行われているにもかかわらず増え続ける軽症利用
  財政の健全化へ向けた財務省の財政制度等審議会が、断続的に開催されている。その中の行政サービス効率化の一環として、「軽症者に対する救急出動の有料化」を検討してはどうかという提言がなされた。背景としては、平成25年度の救急出動件数が591万件にのぼり、ここ10年間に20%もの増加を示していることがある。しかも、そのうちの約5割が「軽症」であると指摘されている。
  確かに、人口の高齢化が進むとともに日々の健康上の不安が高まっており、ちょっとした身体の異変で「救急車を呼ぶ」という傾向が高まっている。高齢者の所得格差も広がる中で「通院のタクシー代」を節約したいという意向も高まり、この「タクシー代わりの利用」が頻回におよぶケースも指摘されている。
  全国の消防局では、救急車の適正利用を求める住民啓発のポスターを作成したり、悪質な頻回利用者に対して訪問調査指導などを行っているケースもある。また、都市部を中心に#7119でつながる「救急安心センター」が設けられ、救急車を呼ぶ前に症状などの相談を電話で受け付けるという事業が行われている。相談医などの判断により、「救急出動が必要」であれば、そこから救急車の手配が行われるというしくみになっている。
  だが、こうした取り組みにもかかわらず、軽症者からの出動要請は後を絶たない。財務省も「現状を放置すれば、真に救急を要する傷病者への対応が遅れ、救命に影響が出かねない」と指摘している。そこで提言されたのが、先の「有料化」である。この有料化については、平成18年に消防庁から出された「救急需要対策に関する検討会報告書」でも検討事項の一つとして取り上げられている。
■ 今後、国の重要な検討課題としての位置づけに
  救急サービスの経費については、昭和38年に救急業務が法制化されるにあたり、「救急業務に要した費用は徴収しないものとする」という審議会答申を反映させてきた。これに対し、検討会報告書では、「軽症者への民間搬送サービス等の代替措置の提供」や「ピーク・オフピークに応じた救急隊の編成」などの手段を優先するとしつつも、「国民的な議論の下で、(救急サービスの有料化における)さまざまな課題について検討しなければならない」としている。今回の財務省の提言も、この報告書の文言をベースとしたものだ。
  ちなみに、諸外国においては救急搬送を一部有料化しているケースもあり、たとえば、フランスでは「重症者以外について30分あたり約34,000円」、ドイツでは「基本料金約67,000円」という例が示されている(地域や対象者などケースバイケースによる)。かなりの高額というイメージがあるが、実際は民間保険などによってまかなわれるケースもあり、一概に参考にするというわけにはいかない。だが、今後は国の重要な検討課題として進められていくことは間違いないだろう。
  ただし、(金額設定にもよるが)有料化によってすべてが解決するという問題でもない。たとえば、東京消防庁の検討会では、「有料化することにより『お金さえ払えばいい』という意識によって、これまで以上の救急需要の増大を招くおそれがある」という意見も出ている。救急出動以前のインフラ整備などを含めて多角的な議論を進めることが必要だろう。
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第4章 在宅系サービスでは、“重点化”はどう反映されたのか
第5章 国の最重要施策“認知症”対策と介護保険との関係はどうなるのか?
第6章 手厚く加算されたリハビリ・マネジメントの強化で仕事はどう変わるのか
第7章 介護職員の処遇改善はどのように進んだのか
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田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、『2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート』『認知症ケアができる人材の育て方』(以上、ぱる出版)、『現場で使える新人ケアマネ便利帖』(翔泳社)など多数。
  
2015.05.28
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