>  今週のトピックス >  No.3035
財務省が診療報酬や介護報酬の引き下げを提案
● 団塊世代の負担適正化が課題
  介護報酬がマイナス改正されたばかりだが、4月27日に開催された財務省の財政制度分科会では、早くも次期改正においてさらなる給付抑制を求める提案がなされた。そして6月1日の会合では今月中に財政再建に向けた計画をつくる政府への建議書が正式に決定した。
  今回の介護報酬改定では、全体としてはマイナス2.27%の改定率であった。しかし中重度の介護を重視する方針が強く打ち出されたため、軽度者向けのサービス費は大幅なマイナスとなっている。とくに要支援のデイサービスは、事業者が新規利用の受け入れを渋るなど、全国的に給付抑制の影響が出はじめているところだ。
  しかし今回、財政制度分科会はさらなる給付抑制を求めている。建議書では「社会保険方式を採りながら、高齢者向け給付を中心に、全体として4割程度を公費負担に依存する」と制度上の矛盾を指摘。さらに「将来世代に負担を先送りしている『中福祉・低負担』の状態になっており、給付と負担のバランスを回復することが急務」として見直しが必要だとしている。
  具体的には「団塊の世代が75歳の仲間入りを始める2020年代初頭までに制度改革を実施に移す必要がある」という。これが実行されると、軽度者向けの給付がさらに抑制され、地域包括ケアシステムの推進の足を引っ張りかねないと懸念される。
● ジェネリック医薬品の利用促進に拍車
  建議書では医療・介護を中心とした制度改革と医療の効率化によって国民皆保険を維持するため、以下のことに取り組む必要があると提言している。
   @   公的保険給付の範囲の見直し
   A   サービス単価の抑制
   B   負担応力に応じた公平な負担
  @の給付範囲については、ジェネリック医薬品の利用促進は平成29年度内に60%という目標を80%へ引き上げることが必要だとしている。また長期収載品については保険給付額を後発医薬品の価格に揃えて、先発品を選択したときに後発品との価格差分は患者の10割負担にする新制度を提案。後発品の価格までしか保険適用としないことで、先発品を選択したときの自己負担が高くなるので後発品の利用は促進されると目論む。
  またシップや目薬、ビタミン剤、うがい薬といったスイッチOTC(市販品類似薬)については公的保険から完全に除外すべきとしている。
  医療費については、受診時に一定額を負担する受診時定額負担・保険免責制の導入を提案。1〜3割の自己負担分の他、一定額の支払いを求めるものだ。また、かかりつけ医を制度化して包括払いとすることで診療報酬の抑制につなげたい考えだ。
  次期介護保険の改正では要支援と要介護1、要介護2に対する給付を見直すよう提案。とくに軽度者に対する生活援助は原則自己負担の仕組みに切り替える必要があるとしている。さらに、公的介護保険制度のあるドイツや韓国では給付対象が要介護3以上であることから、日本も中重度者を中心とするよう制度改革を求めている。そして軽度者向けは地方自治体による地域支援事業の枠組みで提供すべきとしている。
  Aの報酬水準については、重度重視など内容にはメリハリをつけつつも、診療報酬本体と介護報酬は全体としてマイナス改定を求めている。
  Bの応能負担については、医療費について75歳以上は原則1割負担が維持されていることは、原則3割負担となる若年世代と比べて優遇されていると問題視。平成26年度から70〜74歳については本則の2割負担に戻っているが、その世代が75歳になる平成31年までに75歳以上の定率負担を原則2割負担に移行することを求めている。
  介護保険制度については、今回の改定で一定の所得がある人は自己負担2割に引き上げられたが、その対象拡大を図るとともに、月額上限(高額介護サービス費)も見直すべきとしている。
  年金については現役並み所得がある場合は国庫負担相当分の年金給付は停止すべきと提案している。
  総じてさらなる自助努力が求められる提案が目白押しであり、今後の検討が注目される。
  
安藤 啓一 (あんどう・けいいち)
福祉ジャーナリスト。
千葉県出身。大学卒業後、新聞や雑誌記者を経験した後、介護福祉誌の編集長を経てフリーに。パラリンピックや障がい者支援、高齢者介護、医療経営、子育てなどの分野を中心に取材活動をしている。医療、介護と縦割りになりがちな情報を、当事者の目線にこだわり、地域発想、現場重視で「横串」編集することを心がける。鳥取県の「介護ガイドAi」(鳥広マガジン)は、編集を担当。介護テキスト、医療経営誌、介護専門誌などで執筆している。また3人娘の父親として、子育て支援活動にも取り組む。
  
  
2015.06.15
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