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医療保険制度改革案が国会で可決・成立
● 国民健康保険の安定化
  社会保障制度改革の一環である医療保険制度改革関連法案が、5月27日の参議院本会議で可決・成立した。改正点によってスタート時期がいくつかに分かれているが、早ければ(国庫補助に関する事項など)平成27年4月1日にさかのぼって施行される部分もある。
  今回の改正は、持続可能な医療保険制度の構築を目指し、安定的な財政運営を進めることが主眼となっている。たとえば、国民健康保険であれば財政運営の主体を市町村から都道府県へと移す。被用者保険であれば、後期高齢者支援金において段階的に全面総報酬割の導入(例.報酬水準の低い協会けんぽであれば支援額を減らし、報酬水準の高い健保組合などは支援額を増やす)などが挙げられる。
● 負担の公平化
  もう一つ重要なのは、保険給付の対象となる療養の範囲の適正化など、患者負担にかかわる改正点だろう。ここでは、この患者負担を中心にスポットを当て、具体的にどのような負担増が進んでいくのかを整理してみたい。
  まず、入院時の食事代について、入院と在宅療養における負担の公平性を図る観点から引き上げがなされた。これまで入院に際しての食費負担は「食材費相当」のみであったが、ここに「調理費相当」がプラスされた。療養病床や介護保険施設などの食費負担とのバランスをとったことになる。なお、引き上げの対象となるのは「一般所得世帯」であり、低所得者(住民税非課税世帯)および難病・小児慢性特定疾病患者については据え置かれている。具体的には、現行で一般所得世帯が一食260円のところが、平成28年度に360円、平成30年度には460円と段階的に引き上げられる予定だ。
  次に、紹介状なしで特定機能病院などの大病院を患者が受診する場合の「定額負担」に関する項目。患者が病院で受診する場合、療養にかかる一部負担が発生するわけだが、この他に、紹介状なしで特定機能病院および500床以上の病院を受診する者(救急の場合を除く)から「選定療養」にかかる定額負担を求めることを義務化するものである。そのうえで、病院側は患者に対して「病状に応じた適切な医療機関を紹介する」などの措置を講ずることとされた。具体的な負担額は今後検討されるが、現状では5000〜1万円程度が例示されている。大病院が「かかりつけ医」であるというケースも想定されるため、すべての「紹介状を持たない患者」を対象にするかどうかなども議論の対象になると思われる。
● 患者申し出療養の創設
  この他、平成28年度から患者申し出療養が創設される。これは、保険外併用療養のしくみとして「患者の申し出(患者から国内未承認薬を使いたいといった申し出)」を起点として安全性などの審議を行うというもの。これにより審査期間が短縮されるが、すでに該当する療養に前例がある場合にはさらに期間が短縮される。当初日本医師会などからは、「混合診療の解禁の延長線上にある」という批判も上がったが、最終的に保険収載に向けた評価を前提とするしくみとなったことで、医師会側も矛先を収めることになった。
  なお、被保険者の負担増としてもっとも注目された「後期高齢者医療制度の保険料軽減特例の原則廃止」については、今回の法案には盛り込まれていない。ただし、国としては平成29年度から段階的に廃止する方針は崩しておらず、今後の議論が注目される。
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第2章 まず、最も利用者の多い訪問・通所介護を掘り下げよう
第3章 特養ホーム等、施設の基本報酬ダウンと中重度者対応への重点施策
第4章 在宅系サービスでは、“重点化”はどう反映されたのか
第5章 国の最重要施策“認知症”対策と介護保険との関係はどうなるのか?
第6章 手厚く加算されたリハビリ・マネジメントの強化で仕事はどう変わるのか
第7章 介護職員の処遇改善はどのように進んだのか
第8章 総合事業による介護保険の「スリム化」そして“重点化”にどう対応したらいいのか
  
田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、『2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート』『認知症ケアができる人材の育て方』(以上、ぱる出版)、『現場で使える新人ケアマネ便利帖』(翔泳社)など多数。
  
2015.06.15
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