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「2025年」の必要病床数推計をめぐる波紋
● 約30万人の患者を介護施設・在宅医療が受け入れる計算!?
  2014年に成立した「地域医療介護総合確保法」では、2018年3月までに各都道府県が地域医療構想を策定することを義務づけている。これは、団塊世代が全員75歳以上となる2025年に向けて病床の機能をどのように再編するか、また、その必要量をどう定めるかを示すものだ。
  この地域医療構想の策定が進む中、内閣官房の専門調査会は「全国ベースの積み上げ」として6月15日に「2025年の医療機能別必要病床数の推計結果」を公表した。これが各メディアで大きく取り上げられ、医療・自治体の現場に大きな波紋を起こすことになった。それだけ導き出された推計値がショッキングだったからだ。
  2014年7月時点での病床機能報告によれば、@高度急性期は19.1万床、A急性期は58.1万床、B回復期は11.0万床、C慢性期は35.2万床で、トータルで123.4万床となっている。
  これに対し、「2025年の目指すべき姿」として推計した数字によれば、@Aの高度急性期・急性期の合計で約24万床減、Cの慢性期で6.7〜11万床減としている。@〜Cのトータルの病床数では約4.4〜8.4万床の減少となる。もっとも、これは現状との比較に過ぎない。2025年における高齢化の進ちょくを織り込んだ数字(152万床)との差で見ると、33〜37万床減という数字が導き出されている。
  ちなみに、Bの回復期は現状から約26.5万床増となっているが、昨今の診療報酬改定の流れを見ると、回復期病棟は「早期の在宅復帰」をうながすためのインセンティブが強まっている。いずれにしても、介護施設や在宅医療等で追加的に対応する患者数は、29.7〜33.7万人に達すると推計されている。
● 政府は「推計値はあくまで参考値」と位置付けているが…
  この途方もない数字に、いち早く反応したのが日本医師会だ。同会は6月17日に定例記者会見を開き、公表前に情報が流出してセンセーショナルな報道がなされたことに対して「地域の医療現場を混乱させ、地域住民を不安に陥れた」として強い遺憾を表明した。そのうえで、「地域医療構想は、構想区域内で必要な病床を手当する仕組み」、「手当の仕方は地域の事情によってさまざま」であるとし、「全国集計していくらになったということに意味はない」としている。医師会としては、こうした数字が一人歩きをすることで、地域医療構想の策定に際してのプレッシャーとなることを強く危惧したわけだ。
  こうした医師会などの反発に対し、厚労省はその翌日(6月18日)、各都道府県衛生担当部長あてに「必要病床数の試算値について」と題した文書を発した。それによれば、今回の推計値はあくまで「参考値」としての位置づけであり、「単純に『我が県は○○床削減しなければならない』といった誤った理解とならないようにお願いします」と釈明している。
  とはいえ、公表された数値の位置づけはともかく、政府からこうした推計値が出されたということ自体、都道府県による地域医療構想にあたって「推計値を横目で睨みながら」という状況を作ってしまう可能性は高い。現状、政府の経済財政諮問会議なども医療・介護の改革についてのドメスティックな改革案を打ち出しており、今後も地域の医療現場などが翻弄される機会が増えていきそうだ。
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第2章 まず、最も利用者の多い訪問・通所介護を掘り下げよう
第3章 特養ホーム等、施設の基本報酬ダウンと中重度者対応への重点施策
第4章 在宅系サービスでは、“重点化”はどう反映されたのか
第5章 国の最重要施策“認知症”対策と介護保険との関係はどうなるのか?
第6章 手厚く加算されたリハビリ・マネジメントの強化で仕事はどう変わるのか
第7章 介護職員の処遇改善はどのように進んだのか
第8章 総合事業による介護保険の「スリム化」そして“重点化”にどう対応したらいいのか
  
田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、『2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート』『認知症ケアができる人材の育て方』(以上、ぱる出版)、『現場で使える新人ケアマネ便利帖』(翔泳社)など多数。
  
2015.07.09
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